日本には創業100年超えが10万社。世界がひれ伏す老舗企業の共通点

 

髪の毛の1/8の細さの金の極細線

そんな企業の一つが東京の田中貴金属工業である。明治18(1885)年に東京の日本橋で両替商「田中商店」として出発した。明治22(1889)年には、白金の工業製品としての国産化に成功。以来、貴金属の売買と加工を二本柱としてやってきた。

現在の代表製品の一つが、金の極細線。最も細いもので直径0.01ミリ髪の毛の1/8ほどの細さのものが作られている。たとえば携帯電話でバイブレーションするものは、大きさ4ミリほどの超小型モーターが使われているが、そのブラシに極細線が使われている。そのほか、車のミラーを動かす超小型モーターにも、適用されている。

金は錆びないし、熱や薬品にも強く、導電性も高い。さらに薄く長く伸ばせる。1グラムの純金を、太さ0.05ミリの線にすると、3,000メートルにもなる。そうした貴金属の特長を長年磨いてきた加工技術で引き出しているのである。今や世界中で使われる金の極細線の大半は田中貴金属が供給している。

同社ではさらに、プラチナでガン細胞の成長を抑えるとか、銀にカドミウムを加えて接点としての性能をあげる、など、貴金属の新しい特性を引き出す革新的な研究開発を続けている

同社の技術開発部門長の本郷茂人(まさひと)氏はこう語る。

貴金属のほうから、そういう特性を世に出してくれ、出してくれって言っているようにな気がするんですよ。われわれが特性を探し出すんじゃなくてね。世の中に出してくれ、出してくれと言っているものを出してやるように努力するのが、われわれの仕事じゃないかと思うんです。
(『千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン』野村進 著/角川グループパブリッシング)

金箔は人の心を読む

携帯電話の中で、折り曲げ可能なフレキシブル・プリント基板配線用の銅箔では、日本国内のライバル1社と合わせて世界シェアの9割を占めるのが、京都の福田金属箔粉工業」である。

設立は元禄13(1700)年、赤穂浪士の討ち入りの2年前に、京都・室町で金銀箔粉の商いを始めた時に遡る。創業300年以上となる老舗である。以来、錫箔、アルミ箔、銅粉、アルミ粉など、箔粉技術一筋にやってきた。

金箔の技術は仏教とともに渡来した。寺院や仏像、仏具の装飾に、金箔が広く使われていた。当時の製法は金の粒を狸の毛皮に挟んで、槌(つち)で叩いて伸ばしていく。極細線と同様、髪の毛の1/8ほどの薄さに引き延ばす。比率で言えば、10円玉の大きさの金を畳2畳ほどに広げる勘定になる。

伝統的な職人の間では、次のように言われている。

金箔は人の心を読む。機嫌の悪いときには言うことを聞かない。時には嘲笑(あざわら)ったりする。金箔は生きているから。

福田金属も、こういう職人気質を受け継いで、世界最高品質の銅箔を作り続けているのだろう。

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