当時、「歴史的記録を世に発表したい」との呼びかけに応えて遺族から寄せられた遺稿は309人分にのぼったといいます。その中から取捨選択され75人分が一本にまとめられて刊行されることになったのですが、そこには意図的な区分けが施されていたというわけです。
ですから、本書が刊行されるや、特攻隊員として散華した子を持つ遺族の一人が、このような編集に対して厳しく異議を唱えたのです。
真にわだつみのこえと題するならば全部の遺墨(いぼく)の中からそれぞれ異なれる性格思想或(ある)いは戦争観或いは死生観を網羅(もうら)して編集してこそ『きけわだつみのこえ』でなければならないのである。
斯(かか)る事は……幾百万の戦死者の霊と其の遺族に対する侮辱にして剰(あまつさ)え社会の良識を誤らしむる残酷行為と言わざるを得ない。
公正さに欠けているというわけですね。
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