「水爆」発表に懐疑的な声も。北の核実験を各紙はどう報じたか?

 

ヒロシマから豊渓里へ

【東京】の「筆洗」は、63歳の詩人、柴田三吉さんの経験から書き始める。柴田さんは10年ほど前に広島での平和祈念式典に行き、そこで、3万人もの韓国・朝鮮人が原爆の犠牲になったことを知ったという。後にそのことを「ちょうせんじんが、さんまんにんという詩に書いた。夫と2人の子どもを失った女性の独白で、「生涯をかけて見るはずだった光を わたしはそのとき 一瞬にして見てしまいました。生涯をかけて見るはずだった光が束になって からだのなかに入ってしまったのです」とある。3人の小さな遺骨を入れた牛乳瓶だけを持って半島の故郷に帰った女性。彼女は、身体の中に入った光に埋もれて夫の顔、子どもの顔を思い出すことができない。「思い出すためには闇が必要でありますが、私のからだの中に、夜の草原のようなやわらかい光はありません」と続く。

その残酷な光を手にしようと、核実験を強行した北朝鮮の行為は、ヒロシマとナガサキで焼かれた幾万人の同胞の残影を踏みにじる「民族史的大暴挙」なのだと、記者はコラムを締めている。

uttiiの眼

余りにも文章が稠密に仕上げられているので、紹介しようとすると、そのまま書き写したい衝動に駆られてしまう。それくらい緊張感のあるコラム。通常なら、構造にしたがって分解することができるのだが、今日の「筆洗」に関しては困難。類い希な詩人の作品を使っているということはあるにせよ、この筆力は凄い

私は30年以上前、広島の平和祈念式典で同じことを知った。長崎と併せて3万人という数字は記憶していないが、平和祈念公園の一角に朝鮮人被爆犠牲者のための碑が建てられており、そこに在日の人たちが大勢集まって、追悼の式典を開いている場に、たまたま遭遇したからだった。

《読売》は豊渓里を逆照射するにあたって60年前のビキニ環礁を選んだが、《東京》は70年前のヒロシマ・ナガサキから。いずれも切れ味が鋭い

「筆洗」の文中、「3万人もの韓国・朝鮮人が原爆の犠牲になった」とあるが、これは微妙だ。原爆投下時点では、まだ韓国は存在しないので、少なくとも、「大韓民国の国民」という意味で韓国人を使うのはおかしい。ただ、原爆投下後、韓国成立後に亡くなった方の中には「韓国人」はいたかもしれない。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

やっぱり、コラムに順位を付けたくなりました。今日は間違いなく《東京》の「筆洗」が1位、2位は《読売》の「編集手帳」、3位は《毎日》の「余録」、最下位は《朝日》の「天声人語」となりました。《朝日》ファンの皆様ごめんなさい。では、また明日。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/1/7号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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