日本のお家芸「技術力」が、実は景気回復の足を引っ張っている

 

ここからは少し発展的な話になりますが、もう少しお付き合い下さい。

何かを戦略的に成功させようとする場合、その全てはたった2つのやり方に分けられます。その2つとは「順次戦略累積戦略」です。この分類法を提唱したのは、元米海軍の将校で、旧日本海軍とも太平洋戦線で戦った経験を持つJ・C・ワイリーという米国の海軍少将です。

ワイリー氏は「順次戦略」について、自分が参戦した太平洋戦争時の米海軍の動きにたとえ、洋上艦が東京の大本営に向かってすごろく式に侵攻していった様子で説明しています。反対の「累積戦略」は、同戦線で米艦隊が日本の潜水艦を1隻ずつ沈めていったのがそれだ、としています。

順次戦略は、具体的には目標の設定、数値化、データ化、バランスシートの強調、もしくは「見える化」など、極めて現代的かつ西洋的なやり方です。正反対のやり方が累積戦略で、1隻ずつ潜水艦を沈めていくように、前後の作戦とつながりのない単発の小さな成果を細かく積み上げます。「見える化」せず、手当たり次第にものごとを進めるという、かなり古い東洋的なやり方でもあります。

「目の前のことを必死にやれば、いつか努力が報われ花が咲く」というのがまさに累積戦略で、日々同じことを繰り返して小さな成果を積み重ねるとある時点で突然爆発的な効果(「創発」という)が生まれるのが興味深い点です。累積戦略には個人や組織の底力を鍛える効果があり、日本でも伝統的に重視されてきました。

この2つの戦略はそれぞれ長所と短所があります。そこで肝心なのはワイリー氏も主張するように、2つを同時に使わなければダメ、ということです。古いタイプの日本人は「累積」ばかりを強調します。若い人や新しいもの好きな人々は「順次」ばかりに目がいく。ところが戦略本や成功本などで名著と誉れ高いものは、この2つをうまくミックスしてアドバイスしているものばかりで、2つは東洋思想でいう「陰と陽」の関係のように、両方同時に使われて初めて成果を発揮するものなのです。

さて、かなり長々とお話してきましたが、最後に、日本という国家としてだけではなく、一人ひとり、各個人が現状を打破するために今回、ここまで私がお話してきたポイントを4つ上げておきます。

  1. 戦略の階層の理解
    (→そもそも「戦略」とはどういう構造をしているのか? を知る)
  2. コントロールの理解
    (→各個の「戦闘力」よりも、「外交力」こそが重要)
  3. ルールを作る側に回るという発想
    (→自分にとって都合の良い環境をしたたかに構築する)
  4. 累積戦略順次戦略を両立する
    (→東洋思想の真髄「陰陽論」の発想を活かす)

このポイントを理解する人々が増えていけば、日本には輝かしい未来が待っていると信じています。

image by: Stephane Bidouze / Shutterstock.com

 

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信
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