バブル崩壊以降、その重度な「後遺症」に悩まされ続けている日本。技術力に関していえば世界的に高い評価を受けている我が国が、ここまで「負けパターン」から抜け出せないのはなぜなのでしょうか? 無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』の著者で戦略学者の奥山真司さんは、「現代社会を生き抜くために必要な『戦略』というものを、日本人が正しく理解していないことがその本質的原因」と指摘しています。
日本人は「戦略」を本当の意味で理解できているのか?
そもそも戦略とは何か? なぜ日本人はこの発想が苦手なのか? それを解決する方法はあるのか?
これから、改めて「戦略」というものについての根本的な話をあえて考えてみようと思います。少し長くなりますがお付き合い下さい。
国際問題について解決法を示している本はいくらでもありますし、個人や組織向けの「成功本」や「ビジネス本」もたくさんあります。ですが、ちっとも状況は解決していません。その問題の本質的な原因はどこにあるのか?
一言でいえば、一般的な日本人は「戦略」というものを勘違いしているような気がしてなりません。だからこそ、巷に出回っている国家戦略に関する本や「ハウツー本」をいくら読んでもさっぱりうまくいかないのではないか…。戦略的な考え方は、今後の暗闇にも似た世界の中を、日本の政府や企業、そして個人が生き抜くためには絶対に必要になります。
日本人は、そもそも「戦略とはどういうものか」という本質的なことは絶対に習わないので、ある程度まで理解できても、根本的なところがなかなか身に付きません。日本人が戦略を体得するためのヒントは、「戦略をタテに考える」ということです。
戦略は、上下の「階層」に分かれています。例えば国家が戦争をするとき、まず必要なのは、優秀な兵隊や戦車・戦闘機を支える「技術」。これらは最も具体的なもので、使いこなせないと意味がありません。そのために必要になるのが「戦術」。さらに、いくつかの戦術を使って大きなプロジェクトを達成するためには「作戦」が必要。ところが「作戦」だけは戦争には勝てません。勝つためには「作戦」をいくつか束ねて軍事的に相手を圧倒するための「軍事戦略」が必要になります。
さらにその上で、国家の資源を戦争で活用するための「大戦略」が必要になってきます。大戦略を準備するには軍人だけでなく政治家のバックアップが絶対に必要で、その政治家は国の「政策」を決定する。そして政策の最終的な方針は、その国のリーダーが持つ「自分の国は何者で、どのようなビジョンがあるか」といった「世界観」に決定されます。
つまり戦略というのは、下から順に
「技術、戦術、作戦、軍事戦略、大戦略、政策、世界観」
の7つのレベルに分けられます。
そして、ここが大事なところですが、
「上位のものが下位のものを決定する」
というの原則です。
この「戦略の階層」という概念を個人に当てはめて考えてみましょう。語学や資格の習得などは最底辺の「技術」レベルになります。そのため、やみくもに技術を得ようとしている人は、さらに上の階層から技術習得の意味を位置付けている人には勝てません。
また、「戦略の階層」で国家について視ると、日本が国家ぐるみで提唱している「ものづくり」も、実は「技術」レベルでしかありません。これでは上から戦略を組み立てている国には勝てるわけがありません。
「戦略」を考える際に最も役に立つこの「戦略の階層」という概念で基本的に言えるのは、「両者が同じレベルで均衡している場合には、より上位の階層で力を持っている方が勝つ」ということです。この仕組みを理解すると、「戦略」というものはかなりレベルの高い分野を扱っていることがよくわかります。