従業員の「母」になる。「矢場とん」2代目女将が起こした経営革命

 

2代目女将を支えていたのは、外部から来た人間がイメージする「あるべき飲食店」に対する思いで、つまり飲食店は家庭では味わえないような満足を提供するところであるという確信でした。とってつけたような説明になりますが、改革を行うにはミッションをかなえる理念とその将来像たるビジョンがどんな事業においてもあらねばなりません。

改革は、内部の「あら隠し」の暖簾の新調や、陶器の食器への変更など可能なところから始め、食材やメニューの変更、さらにPOSの導入などに及んで行きました。その当時「矢場とん」では無断欠勤や無断遅刻の従業員が多かったそうです。「人」が要で、これをなんとかしなければならないとトコトン考えて辿りついた結論が、これらの従業員のお母さんになろうというものでした。問題点は一人一人が大人に成長しておらず「弱い」ということで、一人前の大人にすることが私の役割である、とする使命感でした。

そして、長男の鈴木拓将氏が入社したことは大きな支えとなりました。従業員に今後の店の方針を説明して、長男の鈴木拓将氏が「僕たちの言うことがイヤなら辞めてくれ」とはっきり言ったことで、スタッフのほとんどが入れ代わったそうです。そこから2代目女将・鈴木純子さんの本格的な「お母さん女将」の従業員教育が始まって行きました。

新しい女将は従業員家族とも付き合うしプライベートな生活にまで愛情を持って介入して行きました。

「仕事に余裕が出てくる30歳までは結婚せずに、しっかりお金を貯めなさいと言って、天引き貯金もさせます」

そして、チーフの暮らしに下の子たちが憧れて仕事を頑張ってもらえるようにと、4人のチーフの保証人となり家の購入までも世話をやいたのです。

「矢場とん」でも、「お菓子問屋の吉寿屋」と同じように、優秀社員には年1回の表彰がありますが、ここでの褒美は女将が自らが選んだ母心がこもったもので、普段では手の出ないロレックスの時計やダイヤのネックレスです。新人賞には野球好きの社員向けのオリジナル・グローブが進呈されています。

同社の業務日誌がまたユニークで、業務上のことだけが記されるのみならず「個人の悩み」までもが語られ、経営者や管理者だけでなく皆で共有されていて励ましや助言ができるような仕組みになっているのだそうです。

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