プーチンの狙いは?シベリア鉄道の「北海道延伸」がもたらすもの

 

「シベリア鉄道脅威論」は、常識で考えるとおかしい

「シベリア鉄道が北海道まで伸びてくる」と聞いて、「これは日本の脅威だ!」と言う人がいます。鉄道を使ってロシア軍が攻めてくると思っているのでしょうか? とても面白いと思います。

たとえば、旧ソ連・バルト三国はソ連崩壊後、欧州べったりになり、ロシアとの関係が悪化しています。特にクリミア併合後は、「ロシアが攻めてくる!」と恐れている。しかし、ロシアからバルト三国に、電車で行けます。

ロシアの西の隣国ウクライナ。2014年2月のクーデターで、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚。今のポロシェンコ大統領は、極めて親欧米で、激しく反ロシア。それでも、ロシアからウクライナに電車で行けます。

鉄道があるとロシア軍が攻めてくる」という話がホントであれば、バルト三国やウクライナは、ロシアとの電車の行き来を止めるはずでしょう?

少し冷静に考えればわかりますが、「戦争が起こる、起こらない」は「電車が来ているか来ていないか?」と関係ありません。二つ、あるいは複数の国が、「話し合っても解決できない」から「戦争」をするのです。

ロシアは、「北方4島を実効支配していて現状に満足しています。中国は、「日本には、尖閣だけでなく沖縄の領有権もない!」とメチャクチャな主張をしている。しかし、ロシアが「日本に北海道の領有権はない!」などと主張したのは、聞いたことがない。日本とロシアが戦争になる可能性は、日本側がたとえば北方4島奪還を目指して仕掛けない限りほとんどゼロなのです。

もう一つ、「シベリア鉄道が北海道まで来ると移民が増える」と心配している人もいるそうです。しかし「移民が増える、増えない」は、「鉄道で人がやって来る、来ない」と関係ありません。

私は、モスクワからフィンランドや、ウクライナのキエフなどに寝台列車でよく行っていました。国境に着くと、パスポート検査があり、きちんと入国管理がされています。つまり、飛行機で外国人が来るのも、電車で外国人がくるのも、「管理」という面では変わりません。

断言しますが、移民が増えるのは、「日本政府がそれを望んだ場合に限られます。今、日本では外国人の労働者が増えています。これは、別に「日本に来る中国人が増えたから」ではありません。日本政府が、外国人労働者を受け入れる方針をとっているからです(私は、「日本人が嫌がる仕事は、貧しい国の外国人にやらせればいい!」という「差別的3K移民」に反対しています)。

ドイツが去年、難民を100万人も受け入れたのは、メルケルがそういう方針をとったからです。ですから、「移民の増減」は、「シベリア鉄道が北海道と繋がること」と関係ないのです。

日本~欧州貿易に大きなメリットが

シベリア鉄道が北海道と繋がると日本が儲かる

なかなかイメージ湧きませんね。しかし、もう少し視点をグローバルにしてみましょう。

EUは、日本から「はるかに離れた地域」というイメージです。それでも、人口は5億人をこえ、世界GDPの約4分の1を占めている。あなどれません。日本との貿易ですが、日本からEUへの輸出は2014年、約8兆円。日本のEUからの輸入は2014年、8兆6,250億円日本とEUの貿易は、ほとんど船を使って行われている。それで、日本からEU加盟国にブツが届くのに30~40日かかる

イメージしてみましょう。北海道で荷物を積み込んだ。それが電車でロシアを横断して、欧州まで送られる。値段的には船とほとんど変わらず、日数的には、20日ぐらいで届く。料金そのままで到着までの日数が10~20日短縮するので、とてもお得なのです。

実際、日本企業は1970~80年代、シベリア鉄道を貨物輸送に利用していました。ところが、90年代にソ連が崩壊すると、トラブルが続出し、日本企業は使わなくなった。それで、海上輸送にシフトしたのですね。

とはいえ、ロシアも90年代とは全然違います。プーチンは、鉄道網の近代化、高速化を進めている。人々のモラルも90年代比で大きく改善されているので、北海道→ロシア→欧州を鉄道で繋ぐのは、珍しく日ロ欧みんなにメリットがある話なのです。

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