さて、問1の残された不備。
不備2)「★が何によってどうなることを指すか」と問うているのに、「★が」の語句が模範解答に入っていない。入れる必要があるのかないのか。字数指定がシビアなのでこれは重要。
「街並み保存地区が何によってどうなることを指すか」と問われたら、普通は「街並み保存地区が」から書き始めるべきである。
たしかに「一石(何によって)」と「二鳥(どうなること)」の内容が分かるようにとの指示があるが、それしか書くなとは言っていない。
ここで「街並み保存地区が」を入れるとする。すると、単に文字数がシビアになるのみでなく、不備3につながることになる。
不備3)「★が」を入れると、「(どう)なる」という言い方で答えにくくなる。
「街並み保存地区が観光資源化する」とは言えるが、「街並み保存地区が治安がよくなる」とは言えない。後者は、仕方ないので「街並み保存地区が治安維持される」などと変換するしかない。この時点で、どうやら主語は無理矢理入れなくてもよさそうだな、と勘づけばよいのだが、律儀な受験生ほどこういうところで苦労することもあるだろう。
だから、主語を入れるか入れないかを指定してしまえばよかったのではないかと思われる。
さて、問3に進もう。
問3
正答及び基準(全ての問いの設問,解答,解説PDFはこちら)
不備4)採点基準によれば、抽象化されたハイレベルな答案が、正しいにもかかわらず不正解になってしまう。「できる子ほどできない問題」の典型。
何と言ってもこの問いは600人モニター調査での正解率が3%。つまり、18人しか“正解”しなかったのだ。
しかし私はこの問いを最初から「悪問」だとは思わない。
冒頭にも述べたように、狙いは良質なのだ。
ところが、採点基準がひどい。
どんな良問も、採点基準がひどければ悪問に生まれ変わるということだろう。
あなたが採点者なら、この問3に対する次のような答案をズバリ何点にするだろうか?
求められている自己犠牲を受け入れること(19字)の是非。
自己犠牲。姉と父との対立点を見事に抽象化したひとことであろうと思う(これは私が作った)。
では、これはどうか?
私的なことより公的なことを優先すること(19字)の是非。
これは、当塾の高校生の答案である。十分、正しい。
「感情を優先することの是非」(感情←→理性)、「理想を求めることの是非」(理想←→現実)といった答案を含め、こうした意図的な対比的抽象化を行った答案が19名中4名(21%)。私は日々、こうした「勇気ある抽象化」を行うよう指導している(こちらのmine記事参照)。だからむしろ4名は少ないと思ったくらいであり、今後もっと徹底的に指導しなければと思った次第だ。
さて、模範解答はどうか。
「自己負担」と「個人の自由の制限・制約」についてそれぞれ書かれていないと不正解になるらしい。
これらは、「私的なこと」の具体例である。自己、そして個人という言葉が、それを明確に説明している。しかし、先の高校生の19字は、ほぼ間違いなく、0点になるであろう。
アルバイト採点者には、まずそういう解釈能力がないだろうし、あったとしても、恣意的な採点は許容されない。あくまでも与えられた採点基準に従わなければならない。
まあ、「感情を優先することの是非」、「理想を求めることの是非」という答案は、議論の対立点と呼ぶにはあまりに意味を広げすぎ(抽象化しすぎ)だから満点は与えられないだろうが、途中点は与えたいところだ。しかし少なくとも今回の問題では「途中点付与」のシステムがないようだから、これら抽象化力を備えた答案も、白紙の答案も、全く同じ0点と判断されることになる。
こんな理不尽があるだろうか?
これが、何年も議論された「思考力・判断力・表現力を測る新テスト」の完成形だとするならば、ため息を100回ついても足りない。
完成形じゃないだろ、って? ああ、たしかにまだモニター調査段階だ。
しかしおそらく、完成形になっても、こういう採点上の理不尽が消えることはないだろう。
なお、途中点は付与されないため、「自己負担」だけに触れている答案も、0点扱いになる。
モニター調査では、84.7%が「条件の一部を満たす答案」を書いたらしい。そのほとんどは、「自己負担」について書けていたはずだ。
この問3について「自己負担の是非」を挙げられれば、それで少なくとも半分は点数をあげるべきではないのか?
当塾では、勇気ある抽象化を行った4名を除く15名のうち14名が、自己負担について明記できていた。
それはそうと、もう1つの正答条件、「個人の自由の制限・制約」について書くことは、かなり難しいと思われる。
対立点というのは、共通の観点のことだ。
姉も父も、いずれもがセリフの中で明確に触れている必要がある。片方ではダメだ。
この見方に立って細密に文章を振り返りチェックしないと、「自己負担」だけに引っ張られてしまう。
では、細密に文章を振り返りチェックしてみよう。