日本の企業が見落としがちな、従業員に対する「マーケティング」

 

キーエンスのケース

この自動制御機器を中心とした製造販売会社は、最高の収益率と日本一の報酬(一人当たり)を計上しています。創業者の滝崎武光氏が「倒産しない経営」を考え抜いて築き上げた企業で、ニッチ(すき間)な顧客に特化して自社の「強み」要素を究極なまでに構築して他の企業が参入できない状況をつくる「戦わない戦略が取られています。そのマーケティングの特色を一言で言うと「だれも提供していない、あなた仕様で役立つものを、あなたに提供します」となります。

キーエンスの状況は、顧客が一般消費者ではないため見えにくく、ここには憶測が含まれていることを最初にお断りしておきます。

顧客に対する「マーケティング」

メーカーを主なターゲットにして供給される製品・部品は「センサー」「測定器」などで、機能的な専門性が求められるものに特化して「コンサルティング」サービスをも付加しています。そして、顧客の「生産性を高めるために必要な高機能な機器・部品という『欲求』」「モノづくり機能はあるものの充分な知識を持たない『現実』」「機能することを求める『価値感』」を顧客以上に知悉(ちしつ)して供給します。

顧客が求める前から求められている効用を用意できる営業は、競争できない状況を構築できるので、価格設定において優位な「市場」が形成されます。ただ、このシステムはほとんどマニュアル化されているようで、成功事例をもとに横展開しているようです。顧客のニーズの効果的な読み取りも、マニュアルのなかにあるのでしょう。

従業員に対する「マーケティング」

特化した顧客に対して、「マーケティングを実現できる人材の獲得がその焦点になります。主たるインセンティブ(誘因)は、ずばり日本最高レベルの報酬です。一人当たりの報酬額(給与)は、トヨタ自動車の2倍以上の金額です。

求めている人材は2分野で「機能として秀でた人材です。最も「強み」としなければならないのは製品開発で、ここが欠けるとビジネス・モデルの基盤が形成されません。精密機器分野の企業の報酬としては一頭地を抜いているのと、ドライな社風なので、「やることさえできていれば評価される」ことにより安定しているのです。

もう一分野は営業マンで最適機能を発揮する人材が求められます。中途採用はなく、色のついていない新入社員を自社のノウハウで鍛え上げることにより企業仕様に戦力化しています。与えられた高い「ノルマ」を、決められた営業手法を繰り返すことでスキルが磨かれて勝ち抜くことで「機能戦士」になって行きます。ついてこれない者は、とうぜん淘汰されます。

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