萩生田官房副長官の「ご発言」を紛れ込ませた、文科省「最後の一刺し」

 

安倍官邸の特徴は、話し合いを無力化し、力で押し切ろうとすることだ。無理を通して、道理が引っ込んでも、頓着しない。「マフィア政治」と批判する識者もいる。

文芸春秋7月号に前川喜平・前文科事務次官の手記が掲載されている。その一節。

内部文書は、昨年9月から10月末の間に…私が担当者らから次官室で報告を受けた…彼らは内閣府の審議官から「官邸の意向だから早くやれ」とせっつかれ、報告に来る度に困り切った顔をしていました。

前川氏がメディアで証言する動きを知った官邸は、まず出会い系バー・スキャンダルをでっち上げて前川前次官をつぶしにかかったが、それが裏目に出た。週刊誌の報道などで前川氏の誠実な人柄が明らかになり、彼を慕う現職官僚たちが内部から援護射撃を始めた

当然のことながら、調査などと大げさなことをするまでもなく、文科省は文書が存在することを知っていた。誰が書いたかが分かっているからだ。

平成28年9月26日の日付がある文書には、その会合に出席した四人の官僚の実名が記されている。出席者は内閣府から藤原豊審議官ら二人、文科省から高等教育局の浅野敦行専門教育課長と課長補佐、牧野美穂氏の二人。

牧野氏は平成18年入省というから11年のキャリアを積んでいる。通常、こうした会議のメモ文書を作成するのは課長補佐である。だから、彼女に聞けば、たちどころに、文書の存在は分かるはずだ。

だが、官邸はそれを承知の上で、出所の分からない「怪文書」にしてしまった。

以来、文科省の職員は、文書の存在は確認できないものとして口裏を合わせるよう強要された。

確かに、文科省は組織ぐるみで天下りの斡旋をし、その責任をとって前川氏は事務次官を辞任した。むろん他省庁でも似たようなことはやっているだろうが、反省すべきことに違いない。

だからといって、いやしくも教育にたずさわる者として、嘘をつき続けることは辛く、せつない。

あったものをなかったものにできない」という前川氏と共通する思い、そして、文科省に対する内閣府の高圧的な態度への反発心は、加計学園問題の発覚以来、文科省内部、とりわけ高等教育局を中心に渦巻いていたことだろう。

前川氏は退任のさい、文科省の全職員にメールを送った

「私が考える文部科学省職員の仕事は、子どもたち、教師、研究者、技術者、芸術家、アスリートなど、それぞれの現場でがんばっている人たちを助け、励まし、支えていくことです。…特に、弱い立場、つらい境遇にある人たちに手を差し伸べることは、行政官の第一の使命だと思います。…気は優しくて力持ちそんな文部科学省をつくっていってください

涙ぐむ職員が何人もいたと聞く。新自由主義の流れの中で経産省からの出向組が幅を利かす官邸、内閣府。彼らから見たら、文科省は生ぬるいのかもしれない。

だが、いくら国家戦略特区、規制改革の美名を突きつけられても、道理のない大学新設に税金を使うわけにはいかぬ。「気は優しくて力持ち」という前川氏の素朴な表現に、国家公務員の本来の気構えが感じられ、心を動かされた人もいたにちがいない。

牧野課長補佐が書いたであろう文書が、どのような経路で流出したのかは定かでない。おそらく、書いた当人やその上司である浅野専門教育課長はかかわっていないのではないだろうか。官邸の指示による“犯人捜し”のターゲットにされやすい立場であるからだ。

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