「我々は日本語や日本文化の灯を絶やさなかったから生き残った」
深沢氏は勝ち組系の二世長老から聞いた次のような発言を紹介している。
戦後、認識派(JOG注:負け組)の子孫はどんどんコロニア(JOG注:日系人社会)から離れ、同化して消えていったが、我々は日本語や日本文化の灯を絶やさなかったから生き残った。そして、むしろそれが評価される時代になった。
(同上)
日本人としての「根っこ」を失えば、圧倒的多数のブラジル人に同化吸収されてしまう。逆に日本語や日本文化の根っこを大切に育ててきた人々は、ブラジル社会に独自の貢献ができ、それが評価される。
ブラジル法学界の権威である原田清氏は編著書『ブラジルの日系人』の中で「ニッケイは日本人の魂をもってブラジル人として振る舞う」人々で、「本国ではもう見られないような(伝統的な)日本文化をわかちがたい絆として引き継いでいる」と書いている。
深沢氏が「どんな伝統的な日本文化が次の世代に継承されるのか」と原田氏に問うと、「勤勉、真面目、責任感、義理、恩、礼などが残ると思う」と答えた。
これらの徳目こそ、日本人の根っこそのものだろう。本国・日本では占領軍とその後の左翼思想による歴史の断絶によって、我々の根っこがほとんど断ち切られてしまったが、ブラジルの日系人は意図的な努力で根っこを太く深く伸ばし、そこから湧き出るエネルギーによってブラジル社会で称賛される地位を築いたのである。
ブラジルの日系人の苦闘の物語は二つの事を我々に示してくれている。
第一に、日本人の根っこは、ブラジルという異境の大地においても、しっかりと太い根を伸ばし、立派な幹を育て、美しい花を咲かせたことだ。この事実は、日本人の根っこが世界に通用する普遍性を持っていることを示している。いまや世界各地で暮らし、仕事をしている在外邦人にとって貴重な示唆である。
第二に、ブラジルの日系人が、日本人の根っこからのエネルギーによって苦難を乗り越え、その過程でまた根っこを太く深く伸ばした事である。これは防衛、経済、少子高齢化など多くの苦難に直面している日本列島に住む日本人に希望を指し示している。
現代の日本人全体にこのような貴重な教訓を示してくれた在ブラジル同胞の一世紀の苦闘に深甚の敬意と感謝を捧げたい。
文責:伊勢雅臣
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