夜勤の睡眠不足は、夜勤をやめる以外に解消法がない過酷な現実

 

夜勤・シフトワークはがんをはじめ万病のもと

その前に、夜勤をしている交代勤務者いわゆる「シフトワーカー」は、どれくらいいるのだろうか。コンビニ店員、警備員、深夜まで営業しているファミレスや居酒屋の店員。看護師や介護職員も、もちろん忘れてはいけない。

産業医科大学・公衆衛生学の久保達彦講師が、厚生労働省と総務省の両省のデータをもとに、交代勤務者数の推計を行った調査がある。深夜業に従事する人の割合は平成14年17.8%、平成19年17.9%、平成24年21.8%と増える一方であり、平成24年においては1,200万人の労働者が深夜業に従事しているという。

まさに、24時間社会であり、日が昇ったら起きて沈んだら眠るという原始生活からは大きくかけ離れている。上記に挙げた職種以外にも、わたしたちの想像できない職種の人が、夜勤に従事しているのだろう。わたしの患者でも、外国と取引している証券トラーダーがいたが、不眠の原因はストレスと「夜勤」であった。

夜勤がつらく健康に悪そうなことは感覚的にはわかるが、健康被害が合併することは一般の人には意外に知られていない。交代勤務開始10年ほどで、高血圧と心臓病が起こりやすくなる。うつ病など精神障害とも関連も大きいとされる。

さらに最近では、発がん性も注目されている。乳がん、前立腺がん、子宮がん、直腸がんが、交代勤務と関連性を指摘されている悪性腫瘍である。2007年には、国際がん研究機関が、交代勤務で睡眠障害(正確には、睡眠覚醒リズム障害)のある人を、発がん性のある曝露状況にあると分類したことでも、事態の重大性がわかるだろう。

夜間分泌されるメラトニンは抗がん作用があり、交代勤務ではメラトニンが不十分になるためがんが生じるという仮説もあるが、まだ確認されたわけではない。わたしの考えでは、交代勤務ではほかにもさまざまな身体・精神・社会的ストレスが生じる。専門家は「因果関係を断定することはできない」「ほかにも要因がある」と慎重だが、病気の種類を問わずリスクが上がらないはずがないと思うのである。

解決策は・・・あってないようなもの

解決策は、果たしてあるのだろうか。いくつか手元にある交代勤務者に関する論文では、

  • 睡眠や仮眠の取り方を工夫してみましょう
  • スケジュールやシフトを再検討しましょう
  • 夜勤中の仮眠やカフェイン
  • 眠気防止のため、作業場を明るくしましょう
  • 夜勤明けの運転には注意しましょう
  • 薬剤(精神刺激薬であるモダフィニール)を使う場合もあります

前述のツィッタラーではないが、

「そんなこと、わかっとるわ!」

「それができんから、苦労しとるねん!」

「そんなことしかないか、ガッカリやな」

というような対策ばかりである。

しかしこれらが、現状では教科書的には適切な対策である。

個人での解決策は絶望的であることがわかってきたので、社会的に取り組むべきという意見もある。とはいえ、現代社会から夜勤を大幅に減少させることなど不可能である。代わりの意見としては、夜勤は健康に悪いと諦め、交代勤務者の健康リスク補償を、料金上乗せや税金で受益者が負担するという議論である。健康被害とお金とはイコールではないが、わたしも夜勤にはしかるべき対価が払われるべきだと思う。

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