安保法案の根拠「中国が日本を侵略する脅威」は本当なのか?

 

また野党も、議論の前提となるはずの「安全保障環境」のどこがどう悪化しているのか、「中国の台頭」にどういう意味がありリスクが潜むのか、それは本当に軍事力強化によってのみ対処すべき事柄なのかどうかについて、具体的に踏み込んで追及することはなかった。そのため、与野党の双方から安全保障環境、すなわち日本は現在から見通しうる将来にわたって、どのような脅威に直面しているのかという議論は一向に深まらず、そのためにむしろ国民の間ではマスコミが作り出す「何となく中国は怖い」という漠然たる感情が広がり、「安倍のやり方はおかしいけれども、やはり抑止力は必要だ」というような意見が根強く残って払拭できない状態が続いている。

およそすべての防衛論議の第1章は、脅威の見積もりでなければならない。この場合、その中心は「中国の台頭」の評価、次いで「北朝鮮の企図」の見極めである。それを踏まえて、第2章から第9章までは、その脅威を潜在的なものに止めつつ上手に管理して危機を予防するためのあの手この手の平和的・非軍事的な手段の探究に割かれるべきで、それらすべてが不成功に終わったと仮に想定して、第10章で初めて軍事的な備えについて語るのでなければならない。今回の安保論議の根本的な欠陥は、第1章の脅威の評価も、第2章以下の平和的解決の知恵の積み重ねもなしに、いきなり第10章だけを切り離して持ち出してくる剣呑さにあるのであって、野党はその限りで健闘して問題点を浮き彫りにし、国民の理解を深めさせたのであるけれども、この議論全体の歪んだ枠組みを転覆してあるべき姿に戻すまでの力はなかった。

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 『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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