自民圧勝も浮かぬ顔。安倍首相に立ちはだかる3つのハードル

 

年内に自民党内で改憲案がまとまるのか?

3分の2超の再確保で、さあ改憲まっしぐらかと思いきや、そうでもない。むしろ選挙戦の最中から終了後にかけて、安倍首相の言い方は「スケジュールありきではなく」と慎重さを増しているようにさえ見える。

第1に、自民党の中がまとまる気配がない。そもそも安倍首相は今年5月3日、自民党の誰とも相談もせずに唐突に「9条加憲論」をブチ上げてしまったので、執行部や憲法族はもちろん、石破茂氏はじめ2012年の同党憲法草案の作成に関わった人々が、この安倍首相の不真面目な案に簡単に賛同するとは思えない。

年内に自民党案をまとめて、それを来年の通常国会早々にでも衆参両院の憲法審査会に提示し、他党にもそれぞれの案を出すよう促して、巧く行けば通常国会中に改憲を発議し、発議から60日以上、120日以内と定められている国民投票を8月から年末までの間に決行する──というのが安倍首相の前々からの計画だが、まずは自民党案がまとまらなければお話にならない

なにしろ事は戦後初めての憲法改正であって、まずは自民党が打って一丸、火の玉と化して熱い国民運動を繰り広げ、議員一人一人が伝道者となって地元民と激論を交わしつつ説得し支持を広げていくのでなければ、とうてい成功はおぼつかない。が、安倍首相にその統率力はないどころか、この総選挙を通じてむしろ求心力は弱まっていて、年内に自民党案をまとめるのは、かなり難しいのではないか。

第2に、仮に自民党案が安倍首相の意向に沿ってまとまったとしても、公明党がそれに賛同することはありえない。安倍首相が9条加憲論を持ち出した理由の1つは、公明党が前から「改憲ではなくて加憲」と言ってきたのに媚びたからだが、同党は9条に関しては元々護憲派であって、それをいじくってどうこうしようということなど考えたこともない。それを「加憲」という言葉だけで引っかけようというのは余りにも浅はかな考えで、同党指導部はともかく、広範な創価学会員の支持するところとはならない

今回の総選挙で、公明党の比例票が697万票で、史上初めて700万票を割ったというのは相当に衝撃的な出来事で、それは学会の組織勢力そのものが衰えてきただけでなく、安倍首相の改憲路線にズルズルと引き摺られていく公明党への不信が広がっているからで、立憲民主党に入れた学会員もかなりの数に上ったと言われている。公明党としてはこれまで以上に改憲に慎重姿勢を採らざるをえなくなっている。

第3に、仮に自民と公明がまとまったとして、野党の意向を無視して3分の2の力で押し通すという訳にはいかない。自民党憲法族の間では少なくとも野党第一党のそれなりの熟議の末の納得と協力を得ずして突っ走っても、国民投票で過半数を確保することは出来ないだろうとの考えが強い。総選挙で希望の党が失速して安倍流の改憲に反対を真っ向から唱えた立憲民主党が野党第一党に躍り出たことで、その見通しはますます難しくなった

改憲の段取りが立たないままで来年9月を迎えた場合に、安倍首相は何を訴えて総裁3選を求めるのだろうか。彼にとって残されたミッションはそれしかないのであって、それをやり切れないのであればお引き取り願いたいということになる可能性が高い。

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