習近平の神格化でますます虐げられる、中国9億人の貧困層

 

王兵の作品には、音楽がほとんどありません。強い風の音や工場の音、電車の音などの生活音が大半です。そして、様々な賞を受賞しており、その映画評としては、被写体との絶妙な距離感は王兵しか表現できないと言われています。

彼自身も、様々なインタビューで言っていますが、被写体の生活に入り込みすぎないようにしているということです。彼の作品は殺伐としています

無言歌』は劇映画ですが、反乱分子が送られていく辺境の「再教育キャンプ」で、泥のようなおかゆや、草の根などを食べて喰いつなぐ人々を描いており、見ている側はじつに殺伐とした気持ちになりますが、彼曰く「この映画は実際に起こったことを80%カットして描いたもの」だそうで、これでもかなり手加減した描写だと言っています。

彼が扱う題材は、社会的なものばかりであり、中国人として政府や社会に対しての使命感で活動しているのかと思いがちですが、ご本人は使命感など全くないとのこと。題材選びに関しては、自分が感銘を受け、強く惹かれるものを感じたことに対して深く掘り下げていくだけだと言っています。その飄々とした感じが、題材への過度な感情移入を防ぎ、じつに客観的に描いています。

習近平が毛沢東を連想させるような権力集中を続けていけば、中国社会は再び大きな悲劇に巻き込まれるかもしれません。王兵の『無言歌』を見ると、かつての中国人たちの苦しみが実によく伝わってきます。

この映画は今でも中国では上映禁止です。かつての悲劇が繰り返されないまでも、改革開放路線をひた走り、金銭至上主義に陥った中国社会のひずみは、すでに貧困層の人々の生活を圧迫しています。その現状を描いたのが、王兵監督の最新作『苦い銭』です。これは、出稼ぎ労働者が住民の80%を占める浙江省の湖州という町を舞台にした、金にまつわる人間模様を描いたドキュメンタリーです。

キャッチコピーは「働けど、働けど」。この一言で、映画の内容はたいだい推測できるでしょう。彼らの生活がどれほど苦しいか。この映画は、同じ今を生きる日本人、そして世界の人々へと配信され、中国の影の部分を見せてくれるのです。日本での公開は間もなくです。

ワン・ビン監督作品:映画『苦い銭』公式サイト

また、『収容病棟』という作品は、雲南省の精神病院を取材したドキュメンタリーで、中国で1億人を超えたとされる精神病患者を題材に、中国社会が抱える矛盾や暗部をえぐり出しています。

映画『収容病棟』公式サイト – ムヴィオラ

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