どん底から這い上がった引きこもり。哲学者・小川仁志の逆転人生

2018.03.26
 

名古屋に戻る新幹線の時間を待つ間、私は駅前の商店街をうろつきました。正直いって名古屋とは比べ物にならないほどの寂れようです。いわゆるシャッター街。そのときすでに、私の心の中には、ここをなんとかしたいという熱い思いが芽生えていました。その思いは後に商店街でのまちづくり活動として結実します。

家に電話すると妻も幼い娘も喜んでくれました日ごろ頑張っていた私の姿を見て二人で神社にお参りに行ってくれてたそうです。徳山の駅からはコンビナートの夜景が見えます。あの日の天気のせいでその光がにじんで見えたのか、私の目が潤んでいたのかはっきり覚えていませんが、あんなに美しい人工物を見たのは初めてのような気がしました。

セネカは『人生の短さについて』の中でこんなふうにいっています。「われわれは短い時間をもっているのではなく、実はその多くを浪費しているのである。人生は十分に長くその全体が有効に費されるならば最も偉大なことをも完成できるほど豊富に与えられている」。あのときの気持ちを言葉にするなら、こんな感じになると思います。

そうして私はさらにその後の十数年を、まさに一瞬たりとも無駄にすることなく、偉大なことを目指して駆け抜けることになるのです。そのへんは次回、最終回の講釈で……。(第5回へ続く)

image by: shutterstock.com

小川仁志

プロフィール:小川仁志(おがわ・ひとし)

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ogawa-photo1970年、京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部准教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で新しいグローバル教育を牽引する傍ら、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。2018年4月からはEテレ「世界の哲学者に人生相談」にレギュラー出演。専門は公共哲学。著書も多く、海外での翻訳出版も含めると100冊以上。近著に『超・知的生産術』(PHP研究所)、『哲学者が伝えたい人生に役立つ30の言葉』(アスコム)、『悩みを自分に問いかけ、思考すれば、すべて解決する』(電波社)、『突然頭が鋭くなる42の思考実験』(SBクリエイティブ)、『哲学の最新キーワードを読む』(講談社現代新書)等。ブログ「哲学者の小川さん

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