妊娠分娩もリスク
日本医療安全調査機構の調査対象の死亡事例での、急性肺血栓塞栓症の危険因子を頻度の多いものから順にみてみましょう。それらは、二日間以上の長期臥床、BMI25以上の肥満、手術、精神病薬などの薬物服用、でした。妊娠と分娩の領域におけるリスクレベルを見ると、正常分娩と比べると、帝王切開術はリスクが高いです。高齢肥満妊婦の帝王切開術ではさらにリスクが高くなります。静脈血栓塞栓症の既往がある人では、またさらにリスクが高くなります。
故日野原重明先生は生前、安静には弊害があるとおっしゃっていました。長期臥床により筋肉量や骨の量が急激に減っていくことを強調されていました。これに加えて安静は静脈血栓塞栓症のリスクでもあります。妊娠や分娩を経験している妊婦さんに対しては、ベッド上の安静ではなく、むしろ早期退院を促してあげることが大切なのです。
今回の英国王室の家族での出産後の早期退院のシーンが日本でも放映されることによって、このことが当たり前であることが広く認識されることを望みます。日本医療安全調査機構は、医療事故の再発防止に向けた提言のなかに、急性肺血栓塞栓症の予防として、患者参加による予防を含めています。具体的には、早期離床や積極的な軽い運動などがあり、これらは安全な予防法です。このことから考えると、イギリスでの出産後早期退院は急性肺血栓塞栓症の予防も考慮したものと考えるべきでしょう。
文献
急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析。医療事故の再発防止に向けた提言第二号。日本医療安全調査機構。平成29年8月。
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