原子力事業の破綻による巨額損失穴埋めのため、稼ぎ頭だったメモリ事業を売却するも、その利益の大半である7,000億円を自社株買いに充てると発表した東芝。なぜ同社はそこまでの金額をつぎ込み、自社株の買い戻しを行うのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者でアメリカ在住の世界的エンジニア・中島聡さんがその理由に迫るとともに、同社の将来を見据えているとは思えない経営陣に対して苦言を呈しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
私の目に止まった記事
東芝は、再建に必須だったメモリ事業の売却(2兆円)を6月1日に完了しましたが、そこで出た売却益(9,700億円)の大半(7,000億円)を使って自社株買いを実行することを発表しました。
そもそも、メモリ事業の売却は、原発事業の破綻により債務超過状態に追い込まれた東芝が、債務超過の解消のために行ったものです。売却によって強めた財務体制を、自社株買いにより弱めるというのは、直感的にとても不思議です。
この記事によると、昨年12月の時点で債務超過による上場廃止を回避するために、東芝は約6,000億円の第三者割当増資(一株262.8円)を実施しており、今回の自社株買いは、その時に発行した株を購入した株主たちからのリクエストだそうです。
私が予想する限り、すでにこの自社株買いは昨年12月の第三者割り当ての時点で決まっており、その時に増資に応じた投資家たちがメモリ事業の売却後に東芝株を売るタイミングで東芝自身が自社株買いを行う、という約束が、投資家たちと東芝の間で交わされていたのだと思います。
実際、東芝が去年の12月にリリースした「約6,000億円の第三者割当増資」には、「当社は、東芝メモリ売却完了後は、当社グループの財務体質及び事業リスク等を勘案して、適切な株主還元施策の実施を検討してまいります」と書いてあります。
そう考えれば、今回の自社株買いの理由が理解できます。しかし、大きな疑問として残るのは、東芝の経営陣が、今後東芝という会社を、どこで勝負する会社にしたいのかというビジョンがどこにあるのか、という疑問です。
少し前までの東芝は、経営の柱を半導体(東芝メモリ)と原子力と医療(東芝メディカル)に置いていました。しかし、原子力事業は破綻し、その穴埋めをするために、半導体と医療という二つの虎の子を売却してしまった今、どこで勝負する会社なのかは全く見えなくなっています。
低迷している家電やパソコン事業がこれからの柱になるとは思えず(パソコン事業に関しては、シャープへの売却の話が進んでいるそうです)、ITゼネコン・ビジネスにも将来性があるとは思えません。
結局のところ、全ての事業を売却して解散するか、(ソニーがしたように)不動産や金融などで生き残りを図るぐらいしか道は残されていないように思えます。
私は過去に二度ほど東芝の株を所有していたことがありますが(学生時代に初めて購入したのが東芝の株でした)、今の東芝の株には手を出せません。
下のグラフは Twitter 上でのアンケートの結果です。
東芝は、メモリ事業で得た利益の大半(7000億円)で自社株買いをするそうです。どう思いますか?https://t.co/UqsA4lc7Zz
— Satoshi Nakajima (@snakajima) 2018年6月15日