日本の政治は今まで「先送り」にすることで成り立ってきたけれど、もう先に送れないところまできている──。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で著者の柴田忠男さんが紹介しているのは、このままだと崩壊へと進む日本が敷いたレールから「逃げられない世代」である現在30代、40代の方々のために書かれた渾身の一冊です。
宇佐美典也・著 新潮社
宇佐美典也『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』を読んだ。日本の政治は、2~3年スパンで政治を考える与党議員、与党の意向を踏まえて対症療法的な政策を立案し問題を先送りする官僚、刹那的な批判で足を引っ張る野党、という構図の「先送りシステム」で回っている。
「逃げられない世代」は、「自らの身を削りながら団塊ジュニア世代の老後を20年間支えていき、他方で次世代に先送りしない社会保障システムを再構築し、なおかつ日本の安全保障のあり方も外交的に見直していく必要に迫られる」。著者はこの本の刊行時37歳、この宿命を受け止める覚悟だと潔いが、気づいていない同世代の方が圧倒的に多い。というか、同世代の殆どは何も知らない。
著者のいう「逃げられない世代」の宿命とは。「だいたい87~90歳まで生きることを前提に、20歳代前半から60歳までは会社の主戦力として、その後65歳までは会社の補助的戦力として、その後70歳までは一定の収入を得るために自活し、その後70歳を超えてようやく年金収入を中心に90歳までの余生を20年間過ごす」という生活を“目指す”ことになるとか。お見事。元役人の面目躍如。
非常に多方面にわたって問題を取り上げていて、いちいち納得できる。わずか7%のエネルギー自給率のもと、原子力発電の是非、という観点からの考察もある。福島第一原発の事故以来、国民の原発に対する信頼は地に落ち、現在は全42機のうちわずか数基が稼働するのみ、この状況を資源安全保障という観点で評価すると、脆弱だった資源自給率が輪をかけて脆弱になったといえる。
仮に中東で何らかの政治的危機が起きたら、日本の危ういエネルギー需給構造は崩れて経済危機に陥る。また、原発には資源という文脈を超えた、“疑似核武装”という軍事上の意味合いがある。その気になればいつでも核保有国になれるというカードを維持するには、再稼働も核燃料サイクル必要不可欠である。
今後50年、60年を生きていかなければいけない世代としては、「中東での有事や日本の国際経済に占めるポジションの低下を考えると、原発の負の側面を含めて、日本として徹底的に付き合って、それを安全保障の観点から活かしていく必要があるのではないかと考えるところです」。逃げずに、よく言った。
この本の内容をまとめるこうなる(著者自身がまとめたんだけど)
1.著者の官僚としての経験論的視点である「先送り型の行政システム」という視点から、個別の問題に対する政策官庁や識者の姿勢を評価している
2.日本の社会保障と安全保障の問題について、共通の経済的な視点から、問題の所在と、その先送りが行われる政治的構造について分析している
3.政治の問題について多々語るものの、その問題の解決を政治に大きく期待しておらず、こうした政治的な問題を前提として「我々はどのようなスタンスでキャリア形成を考え社会に参画するべきか」という提言を与えている
とにかく饒舌である。自分語りも多い。「逃げられない世代」の宿命を一人でかかえて、多方面を楽しく考察しているような感じもある。わたしは著者の倍くらい齢を重ねているが、教わるところが多々あった。どうして野党があんなにバカなのか、ちゃんと理由があったことを知って気の毒に思った。
編集長 柴田忠男
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