輸出の品目を見ると……
まず第1に、これはあくまで「農林水産物輸出」である。
2017年の統計を見ると、総額は8,071億円で、そのうち農産物は4,966億円=61.5%、林産物は355億円=4.4%、水産物は2,749億円=34.1%で、これだけを見ても農林水産物輸出の倍増が「攻めの農政の結果」だと言うのは短絡的というか、巧妙な言葉の繋ぎによる印象操作であることが分かる。
第2に、そこで輸出の中身を見るために、農林水の3分野にまたがって金額の大きい順に品目を拾うと、次のようになる(図表2、単位=億円)。
《図表2-農林水産物輸出の金額順上位15品目》
- アルコール飲料 545.0
- ホタテ貝 462.5
- 穀物等 367.5
- 真珠 323.3
- ソース混合調味料 295.9
- 野菜・果実類 251.0
- 清涼飲料水 245.0
- さば 218.8
- なまこ(調整品) 207.4
- 牛肉 191.6
- 菓子(米菓以外) 182.2
- ぶり 153.8
- 播種用の種 151.7
- 緑茶 143.6
- かつお・まぐろ 142.6
このうち、01、03、05、06、07、10、11、13、14が農畜産物になる。【1.アルコール飲料】は、日本酒=186.8億円がトップで、ウィスキー=136.4、ビール=128.7がそれに続く。原料に米や麦を使うので農産物に分類されるのだろうが、米はともかく麦はほぼ全量輸入だろうから、日本の農家の収入とは無関係の単なる工業製品である。
【5.ソース混合調味料】は、ソース、たれ、マヨネーズ、ドレッシング、カレールー等の調味料のことをこのように括っている。これもその下の【7,清涼飲料水】【11.菓子】などと同様に工業製品だろう。
【11.菓子】はチョコレート菓子=87.9億円、キャンデー類=68.2、チューインガム7.9 などで、ほとんど国内農産品とは無関係である。
さらにこの表にはないが、この統計には全くの工業製品であることがはっきりしている「メントール」も含まれている(金額は37.7億円)。9月5日付「日本農業新聞」によると、かつてはメントールは国内農産物のハッカから抽出される天然成分として製造され、盛んに輸出されたこともあったが、今はほとんど絶滅して、専ら工業的に合成された化学品しか出回っていない。が、統計上は単なる惰性で今なお農産物にカウントされているという。これは一種の水増しである。
他方、水産物は【2.ホタテ貝】【4.真珠】【8.さば】【9.なまこ】【12.ぶり】【15.かつお・まぐろ】だが、真珠が水産物だというのは、言われてみれば「そうか、養殖だからな」とは思うけれども、食とは無関係のものがこれほど上位に入っていることに違和感がある。ちなみに、ホタテ貝となまこはそれなしには中華料理が成り立たない重要な食材で、香港を中心として中国、台湾、東南アジアに広がった大中華圏がお得意様である。
そうしてみると、これら上位品目の中で農家に関わりがあるものは驚くほど少なくて、【6.野菜・果実等】(主力はりんごの台湾向け輸出)のほかは【14.緑茶】くらいなのである。