世界覇権戦争で対立する2つの大国・米中の間にあって、「軸がぶれ始めているのではないか」との批判的な見方もされている我が国の外交。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、安倍政権発足当時の2012年から直近まで、総理の外交が果たした主な成果を紹介するとともに、現在の世界情勢の中で日本が進むべき外交の「望ましい方向性」を記しています。
安倍外交に暗雲
偉大な成果をあげてきた安倍外交。しかし、一つの目標に達したことで気が緩んだのか、危険な方向に向かう兆候がでてきています。
安倍外交を振り返る
2012年、日本で安倍内閣が発足しました。中国では同年、習近平政権がはじまっています。
日米関係を破壊した民主党政権。日中関係も破壊しました。2010年に尖閣中国漁船衝突事件が起こった。2012年9月、日本政府は尖閣を国有化し、日中関係は「戦後最悪」になっていたのです(私は、「尖閣国有化」を支持しますが、それで日中関係が最悪になったのは、「事実」です)。
そして、ロシアを見れば、メドベージェフが北方領土を訪問する。韓国を見れば、李大統領(当時)が、竹島を訪れ、また「日王が韓国に来たければ謝罪せよ!」などと暴言をはき、日本国民を激怒させていた。
民主党が政権にいたのは、わずか3年です。この3年間で、彼らは、アメリカ、中国、ロシア、韓国との関係を見事に「最悪」にしたのです。
「尖閣国有化」に激怒した中国。2012年11月、ロシアと韓国に、「一緒に日本を破滅させよう!」と提案します。皆さんご存知の「反日統一共同戦線戦略」です。全日本国民必読、完全証拠はこちら。大拡散希望。
戦略の骨子は、以下のとおり。
- 中国、ロシア、韓国で【反日統一共同戦線】をつくろう
- 中ロ韓で、日本の領土要求を断念させよう
- 日本に放棄させる領土とは、北方4島、竹島、尖閣そして【 沖縄 】である
- 日本に【 沖縄 】の領有権はない!!!!!!!
- 反日統一共同戦線には、【 アメリカ 】も入れなければならない!!!
私はこの記事を見て、「嗚呼、新日中戦争がはじまった!」と嘆きました。そして、これに対抗する戦略を提示しました。中国の戦略は、日米、日ロ、日韓関係を分断し、孤立させ破滅させること。だから、日本は、反対のことをすればいい。つまり、
- 日米関係ををますます強固にすること
- ロシアと良好な関係を築くこと
- 韓国と和解すること
シンプルな戦略ですが、実現は簡単ではありません。2013年、安倍総理は、中国の罠にはまっていました。中国は大金を使って反日プロパガンダを行い、大きな成果(?)をあげていた。朴槿恵は「告げ口外交」で、反日プロパガンダに大きく貢献しました。
そして2013年12月。総理の靖国参拝をきっかけに、世界的日本バッシングが起こります。これを非難したのは、中韓だけでなかった。アメリカ、イギリス、ドイツ、EU、ロシア、オーストラリア、シンガポール、そして世界一親日の台湾まで靖国参拝を批判したのです。
日本の政治家のほとんどは、「反日統一共同戦線戦略」の存在を知らないので、仰天しました。「小泉さんは在任中6回も靖国を参拝したが、ほとんど問題にならなかったではないか!?」と。世界で、「なぜこれほどバッシングされるのか?」その理由を知っていたのは、RPE読者さんだけだったのです
しかし強運安倍総理は、救われました。2014年3月、プーチン・ロシアがクリミアを併合したからです。反安倍だったオバマさんは、「反ロシア制裁網」を築く必要がでてきた。それで、日本と和解して、制裁網に引き入れたのです。
2015年3月、今度は「AIIB事件」」が起こりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア,スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、「親米諸国群」がアメリカを裏切り、中国主導「AIIB」への参加を決めた。
日本だけは、AIIBに入りませんでした。それで日米関係は大きく改善された。さらに同年4月、安倍総理はアメリカで「希望の同盟」演説をした。これで、日米関係は、これまでにないほど良くなった。オバマさんは、「日米関係がこれほど強固だったことはない!」とツイートしました。こうして、日米を分断しようとする中国の野望は阻止されました。
そして2015年12月、慰安婦合意がなされた。これ、「案の定」というか韓国側が約束を守っていません。それでも、中国の戦略は、「日韓を分断すること」ですから、日韓が和解するのは、戦略的にいいことなのです。
2016年12月、プーチンが訪日し、日ロ関係は劇的に改善されました。中国の戦略は、日米、日ロ、日韓関係を破壊し、日本を孤立させ、破滅させること。対する日本の戦略は、日米、日ロ、日韓関係を良好にし、中国の「反日統一共同戦線戦略」を「無力化」させること。
安倍総理は、2015年、2016年を通してこれを成し遂げた。戦略を無力化された中国は、仕方なく日本側に擦り寄るようになってきました。これで、安倍外交は、ひとまず勝利を得たといえるのです。しかし…。