藍色を「ジャパン・ブルー」と名付けたのは英国人化学者だった

 

3.藍染め木綿は着る薬

藍はその色も美しかったが、藍が木綿と共に普及したのは、その効能ゆえである。『本草和名』(918年)には、解熱剤として藍実が紹介され、『原色牧野和漢薬草図鑑』(北隆館発刊)では、「生藍の葉、乾燥葉、種子の生および煎じ液が、消炎、解毒、止血、虫さされ、痔、扁桃腺炎、喉頭炎に効果あり」と記されている。

また、ふぐの毒には解毒剤がないと言われているが、唯一、「すくも(蓼藍の葉を醗酵させて堆肥のようにし、保存可能にしたもの。藍染めの原料)を生で食べるとフグ中毒に効果がある」という伝承もある。

藍染め木綿のきものは「着る薬」だった。戦国時代、鎧下には藍染めのきものを着たと言われるが、その理由は矢傷、刀傷でも化膿しにくく回復が早いとされていたからだ。

農民が藍染めの野良着を愛用していたのも、過酷な農作業において、虫除け、蛇除けばかりではなく、皮膚病予防の意味が強かったのだろう。

私自身も汗疹になった時、様々な軟膏を試したのだが、全く良くならず、ふと思いついて、藍染め木綿の生地を濡らして、患部を青く染めながら拭いたところ、すぐに痒みが止まり、その後、完治した。その経験から、藍染めは色ではなく、効能で選ばれたことを確信した。

4.藍染めは防炎加工

綿の生地を炎に近づけるとメラメラと炎を上げて燃える。しかし、藍染めにすると、裸火を付けた部分は赤く燃えるが、炎は上がらない。火から離すとすぐに消える。可燃性の綿が、藍染めにより難燃性と防炎性を獲得するのである。

これは、防炎加工のポリエステルより優秀である。ポリエステルは裸火をつけると、熱で溶融し、燃え上がる。

また、藍染めの生地を水で十分に濡らすと、全く燃えなくなる。江戸時代の火消し装束が藍染めの刺し子であり、水を被ってから使用したことを考えると、我々が考える以上に安全だったのではないか、と思われる。

考えてみれば、藍染め木綿は、木綿の良さを生かしながら、更に、強度を上げ、嵩高性を上げ、抗菌防臭、防炎難燃、虫除け、蛇除け等の機能を有したスーパー繊維であり、これが江戸時代の働く人々のワーキングユニフォームになったことは、至極合理的なことだったと言えるだろう。

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