わかりやすい例で言うと、学校の先生がホームルームで、子供たちに「いい話」を聞かせてあげようとしている、とします。まさに、複数の人々に向かって、発信者になるわけですね。
そういう状況で、先生が、「私の好きな歴史上の偉人、坂本龍馬のすごさ」について話し始めたら、どうでしょう。もともと坂本龍馬を知っている、好きという生徒は、その話に食いつくでしょうが、同じ歴史好きでも、幕末は苦手という生徒は、ちょっと敬遠気味になるかもしれません。
ましてや、勉強的な話は全般的に嫌い、という生徒にとっては、端からスルーなのではないでしょうか。聞き手の関心を考えない、発信者の自意識。やってしまいがちです。
ちなみにこの例示には、例外もあります。それはこの先生が、人気者である場合です。先生が話すということ自体が、みんなの関心事ですから、話題が坂本龍馬であろうと板垣退助であろうと、聞き手にとっては、前のめりで聞きたい魅力的な時間になり得るんですよね。
魅力的な話し手に共通する能力とは?
そんな人気者の例外はともかく、聞かせたいことを「あなたに関係がある話」化して、学校教育で成功している事例もあります。
それは、ただの「一般的ないい話」を聞かせようとするのではなく、例えば、「私たちの母校、この学校のOBに、こんな人がいたんですよ」という話にしてみる。
道徳観の話や、努力の大切さの話をするにしても、自分との接点が希薄な偉人の話としてされるよりも、自分と同じこの学校で、同じ校舎、同じ机、同じ空気を体験したであろうOBの話の方が、ぐっと想像力が高まり、親近感が湧くものですよね。
そして、その関心・熱意をとっかかりにして、調べ物や発表などに発展させる総合的な授業が話題になったりしますよね。『ようこそ先輩』、的な。
言い方を替えると、同じ話のテーマでも、「聞き手に関係がある切り口」で話すことができる、ということです。こういう話し方をするためには、聞き手の状態や気持ちに思いをはせる、話し手自身の想像力が必要になりますが、その想像力は、魅力的な話し手と評される人に共通する能力だと思います。ぜひその思考回路を、習慣化してみてください。
では最後に、練習してみましょう。
あなたは、ある会社の社員で、このたび、自社の新製品を、社内向けに発表する役に抜擢されました。比較的ざっくばらんに話せる環境だとして、その話の導入で「聞き手に関係がある話」を取り入れることにしました。その新製品の設定はご自由にどうぞ。さて、あなたは、どう話しますか?
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