私の尊敬している経済学者であり、東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏先生も、「カネ、カネ、カネの経営は古い。経済の最先端は人だ」と断言します。
「現場の人を大切にする、経営者は従業員を絶対に切らないように走り回る。仕事がなけりゃ、仕事を作るのが経営者の仕事だ」と、世界中の現場を見て周った経験を交え、藤本先生は明言します。
つまり、問題は「長期雇用」にあるのではなく、長期雇用の利点を生かせない経営手法に問題があるのではないか。私にはそうとしか思えない。申し訳ないのです。
長期雇用は健康社会学では「職務保証(=job security)」と呼び、次の2つの確信を働く人が感じることで成立します。
第1に、「会社のルールに違反しない限り、解雇されない、という落ち着いた確信をもてる」
第2に、「その働く人の職種や事業部門が、対案の予知も計画もないままに消滅することはない、と確信をもてる」
真の職務保証は、「今日と同じ明日がある」という安心であり、働く人自身も「ルールに違反しない」という責任を全うしなくてはなりません。
人間は守られすぎるとその温室に依存し、無気力で、無責任な存在になるという側面も持ち合わせているので「会社のルールに違反しない」という責任の明確化は必要不可欠です。
「会社が求める責任を、自分が果たせば解雇されない」という安心があれば、新しいことをやろうという気持ちも芽生えます。その確信が「もっと技術力を高めよう」「もっと成果を上げよう」という前向きな気持ちをもたらし、それが「責任」につながります。
つまるところ、経営者の方から長期雇用を放棄するような発言をすることは経営を放棄してるようなもの。人の力を信じない経営者が率いる企業に、未来があるとは思えません。