あえて問う。宮内庁が天皇陵墓の発掘調査を許さなかった理由

 

今や宮内庁の厳しい管理のもと、われわれは古墳の敷地内に入ることを許されない。仁徳天皇陵参拝者用駐車場から玉砂利の敷き詰められた遠くの鳥居とその奥に広がる森林をながめるのが、せいぜいのところだ。

ネット上には、仁徳天皇陵についての、こんなコメントがあふれる。

「仁徳天皇陵に来たけど、大きすぎて横から見ても全然分からない」
「民家と狭い道はさんで隣り合ってるし、中には入れない」
「近くにいるとただの森。ヘリコプターにでも乗らないと…」

冷静に事実を見ておくことが必要である。天皇の墓とされる巨大古墳には謎が多い。墓を守る宮内庁と文化財としての調査を望む研究者。その立場の違いが、謎の解明を阻んできた。

一方、世界遺産のブランド価値にも低下が懸念されている。2018年の時点で、世界遺産登録数は、文化遺産、自然遺産、複合遺産、危機遺産、全てを合わせて1,092件にものぼっている。

1980年代に運営のまずさで存亡の危機に陥ったユネスコを救ったのはこの事業だった。もちろん、最初のうちは、保存、継承に重点が置かれていた。ところが、90年代以降、様相は激変する。

観光を重視する国々から登録申請が増え始め、いまでは周知のとおり、各国の観光開発の目玉として組み込まれている。

さすがに危機感を覚えたユネスコは登録数を制限しているが、世界遺産がユネスコ最大の事業になり、世界遺産コンサルタントとして食べている関係者も多いことから、登録数が今後も際限なく増えていくのは避けられそうもない。

こうなると、世界遺産のなかで希少価値のより高いものを“スーパー世界遺産”として区別すべきだという議論が出てくるのも、もっともな話だ。

世界遺産は、選択と推薦を各国政府にゆだねている。各国は候補地を選定して「暫定一覧表」をつくり、年1件、ユネスコに推薦し登録を申請する。

TBS系列で「世界遺産」という番組が平成8年から放映されたことも手伝って、「町おこし」に世界遺産登録を利用しようとする動きが日本でも各地域に生まれた。地元に橋や道路を引っ張ってくるのと同じ理屈で、政治家が暗躍するようになった。

平成16年に世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」については、観光振興議員連盟会長をつとめた和歌山出身の二階俊博氏(現・自民党幹事長)が、運輸族のドンの面子にかけて実現に執念を燃やしていたといわれる。もっとも、二階氏がどうであれ、文句なしの候補地ではあった。

print
いま読まれてます

  • あえて問う。宮内庁が天皇陵墓の発掘調査を許さなかった理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け