国際交渉人が説く。米国のイラン対応がエスカレートする真の理由

 

ここにきて対応がエスカレートしているのには、一向に進まない北朝鮮の非核化に関するディールに対するフラストレーションが見て取れます。すでにスタートしているといっても過言ではない2020年の米大統領選ですが、トランプ大統領としては再選を有利にするため、『これまでどの政権も成し得なかった大きなディールの成立』が必要と捉えており、昨年末から2月末までは、それを【北朝鮮の非核化に関わるBig Deal】に設定していました。

しかし、ご存知のとおり、2月末のベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談が物別れに終わり、今後の見通しが立たない中、本件でのdeal makingはタイミング的に“間に合わない”と踏んだのか、ターゲットをイランに“変更”したようです。

もちろん、北朝鮮の非核化に関わるディールについては、日本との関係や中国・ロシアへのプレッシャーという意味では継続的に協議されるはずですが、比較的にロシアや中国の“邪魔”を受けづらく、アメリカがもろに後ろ盾としての役割を果たしているイスラエルと長年対立関係にあることから、以前より批判してきた(そして、いつまでもいうことを聞かない)イランへの圧力強化を選択したようです。

しかし、理解が難しいのは、『イランへの圧力強化と威嚇のシフトアップ』をもって、【何を達成しようとしているのか】という目的です。 先週号でご紹介したとおり、ロシアにとっては、世界戦略においてアメリカと渡り合うための重要なカードの一つがイランで、同時に【出遅れた中東進出のための足掛かり】という意味合いがありますが(その延長線上にあるのが、シリアとトルコとの“密接な関係”です)、アメリカにとって、今、イランと事を構えかねないところまで緊張状態を高める意味は何でしょうか?

考えられる理由は、来年の大統領選挙を見据えた支持層固めです。【親イスラエル=反イラン】の姿勢を明確化することで、国内のユダヤ人支持層の支持を固めたいという思惑と、親イスラエルのキリスト教福音派(注:トランプ氏も近いが、特にペンス副大統領の強固な支持層)からの支持を確実にするための手段と見ることが出来ます。

イスラエルに対抗できる域内の国といえば、イランしかなく、長い間軍事的な緊張も続いていますが、親イスラエルの国内勢力に対して【同盟国イスラエルをイランの脅威から解放できるのは、アメリカだけ】といったメッセージを打ち出したいのではないかと思われます。

そして、その裏にあるアメリカの軍需産業からのプレッシャーも強いのでしょう。イスラエルの軍事技術は世界トップレベルですが、同時にアメリカの武器の導入・購入にも熱心ですから、経済的な同盟国としてのイスラエルを守る姿勢を強く打ち出しておいて、軍需産業をコントロールすると言われるアメリカ国内のユダヤ人層を取り込もうとしているのだと読めます。

ちなみに、トランプ大統領自身は、娘婿がユダヤ教徒で、かつイバンカさんもユダヤ教徒に改宗しているという家族的な理由はあるにせよ、実際にはさほどイスラエルには関心がない模様です。

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