プーチン激怒、ブンむくれ金正恩。安倍首相の外交が失敗続きの理由

 

インフォメーションとインテリジェンス

安倍首相に限らず、日本の指導層が抱える最大の弱点はインテリジェンスの欠如である。インテリジェンスは辞書的には知恵知性理知知能諜報などと訳されるが、場合によっては情報とも訳される。ところがもう1つ情報と訳される言葉があって、それはインフォメーションで、こちらは情報報道受付案内所などの意味がある。つまり日本語ではインフォメーションとインテリジェンスの区別が鮮明ではなく混同されやすい。ここに日本の情報風土の問題点がある。

例えば米国の国家的諜報機関であるCIAはセントラル・インテリジェンス・エージェンシーの頭文字で、これを日本では「中央情報局」と訳しているが、「中央諜報局」のほうが本当に近い。CIAの中心的な仕事は、世界各国の出先機関から1日に何万件も寄せられてくる内部通報や、専門家が読みこなす内外の公刊物などの膨大な量のインフォーメーションを緊急性や有用性を基準に取捨選択し、比較検討し、既存資料と照合して分析するなどさまざまな処理を加えて、最終的には、世界戦略国家=米国がその日に行動するに当たってどうしても押さえておかなければならない情報のエッセンスを、A41枚に凝縮して翌朝午前8時までに大統領執務室のデスクに届けることである。このように段階的に処理されエッセンスにまで煮詰められた情報が、つまりはインテリジェンスで、それが大統領の戦略判断の素材となる。

このように、煮詰め尽くされたエッセンスの珠玉の一滴がインテリジェンスなので、中央情報局をセントラル・インフォメーション・エージェンシーと訳し戻すことはできない。逆に、駅やデパートの案内所をインテリジェンス・センターと呼ぶことはできない。

この違いをワインに例えれば、収穫したばかりのブドウの房が籠に山積みになっているのがインフォメーションである。そこからブドウの粒を選び、潰し、発酵させて芳醇なワインを造り、さらにそれを蒸留して琥珀色のエッセンスを取り出すとブランデーになるが、それがインテリジェンスである。簡単に対照表にすると次のようになる。

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作家の高村薫は4月30日付朝日新聞に令和への世代わりについての寄稿「思考停止、変える力を」でこう述べた。「大人も子どもも日夜スマホで他者とつながり、休みなく情報を求めて指を動かし続ける。そうして現れては消える世界と戯れている間、私たちはほとんど何も考えていない。スマホは、出口が見えない社会でものを考える苦しさを忘れさせる強力な麻酔になっているのである」と。

ここで言う情報がインフォメーションで、それは「現れては消える世界と戯れている」だけ。安倍首相が止まっているのはそのレベルである。「ものを考える苦しさ」を引き受けるのがインテリジェンスで、安倍首相が最も不得意なところである。

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