5月30日、東大とスタンフォード大学の研究チームがマウスの造血幹細胞を増殖させる培養液として、液体のりの主成分・ポリビニルアルコール(PVA)が利用可能であると発表しました。このような驚きの発見、研究成果が上がることについて、米国在住の医学博士で、血液細胞のがんの研究に携わるしんコロさんが、自身のメルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』で解説。血液のがんが他のがんと違って「治しやすい」とされる理由に加え、研究が盛んになる裏事情を明かしています。
最近の「白血病」に関する研究発表について、どう思いますか?
Q. こんにちは、最近白血病についてびっくりするようなお話がありますね。ヤマトのりが骨髄移植に関係するとか。特にヤマトのりに考えが及ぶなんてどんな頭の中なんだろうと思ってしまいます。
私は現在寛解状態にありとても元気です。普段の生活になにも支障はありませんがやはり完治ではないので完治しないかなあ、と思いながら過ごしています。私は白血病ではないですが、やはり期待してしまいます。しんコロさんのお考えを聞かせていただきたいです。
しんコロさんの回答
造血幹細胞の培養には培養液にウシ血清やアルブミンなどを添加するのですが、その代わりにヤマトのりの成分ポリビニルアルコール(PVA)が使えるということが東大とスタンフォード大の研究でわかったというお話ですね。PVAを添加すると、細胞がより長期に培養できて、しかもコストが低いという利点があります。
さて、白血病などの血液のがんの治療は、日本人のノーベル賞でも話題になった免疫チェックポイント療法(PD-1という分子の阻害)や、遺伝子操作をした免疫細胞(CAR-T細胞)による療法などが話題になっています。ケンブリッジという免疫療法の研究のメッカに来てわかりましたが、血液のがんの治療法は他のがんよりも先に世の中に出てくると思います。
というのは、血液細胞のがんは「組織の塊のがん(Solid Tumor といいます)」に比べると細胞が一つ一つ露呈しているので、免疫細胞による攻撃が届きやすいのです。なので、我々研究者も「比較的治しやすい」がんだという認識です。
さらにこれは業界にいないとわからない裏話ですが、こういった創薬研究はもちろん投資家達のお金があるから成り立つわけですが、投資家も「できるだけ早く儲かりたい」と思っているので、「治しやすいがん」に投資をするのです。
つまり、血液細胞のがんに対する研究にはお金が集まりやすく、それゆえにバイオテック企業による研究も盛んになるのです。僕も血液細胞のがんに対する研究をしていますが、その中の一つの多発性骨髄腫は治しやすいという印象です。それゆえに、いくつものバイオテック企業が多発性骨髄腫の創薬研究をやっていて、臨床研究も進んでいます。遠くない将来に完治率の高い免疫療法が登場すると思います。
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