韓国に押された「失格」の烙印。交渉のプロが読む米朝会談の裏側

 

代わりに「仲介役に躍り出た」と言われているのが、習近平国家主席です。G20に先立ち、平壌を訪問し、金正恩氏と共に中朝間のつながりの確認が行われたところですが、恐らくこの際に金正恩氏から橋渡しを依頼された節があります。

それは、中国の北朝鮮問題担当の数人が、習近平国家主席が帰国した後も平壌に残っていたことからも分かりますし、中国外務省が、29日に開催された大阪での米中首脳会談のロジスティックス調整を行っている際に、ホワイトハウスと国務省に宛てて、『金正恩氏のメッセージと面会の意思』を伝えていた模様です。

その内容が米中首脳会談の場で習近平国家主席からトランプ大統領に伝えられ、それを受けて、トランプ大統領はあのTwitter投稿を出し、具体的な調整に入ったと言われています。

しかし、私は一部に流れている「習近平国家主席が米朝間の仲介役になった」という見解には大きな疑問があります。トランプ大統領の行動パターンを行動心理学的に見ると、習近平国家主席の“仲介”を高く評価して、それに乗っかったというのはないと考えています。 中には、「よくやった!」ということで、トランプ大統領は中国に対する追加関税の発動をしばらくの間停止し、話し合いのテーブルを再設定した、という見解も流れていますが、それも米中双方の情報筋からの情報に鑑みると、「ない」と言えます。

それよりは、もっと単純で、トランプ大統領は、米中首脳会談の席で「俺、最近平壌に行って金正恩に会ってきたんだよね」と言われて(実際はもっとフォーマルだと思いますが)、トランプ大統領は、ちょっとイラっときて、「じゃあ、俺も金正恩に会うもんね。ちょうど韓国にこの後行くし」という感じでの決行だったように思えます。

そして30日、歴代米国大統領として初めて南北の軍事境界線を越え、北朝鮮領に足を踏み入れて、新しい朝鮮半島情勢への第1歩を刻むという歴史的な“快挙”を成し遂げています。常識に縛られないトランプ大統領ならではの芸当がなす業です。 しかし、具体的には成果には乏しいと考えられます。それは、上に述べた急ごしらえの首脳会談の裏側のやり取り(まあ、真意はトランプ大統領にしか分かりませんが)を見てみても、『何か具体的に話し合うために会った』という感じではありません。

ゆえに、合意したのは、「話し合いを継続する必要がある」ということのみで、実質には進歩はないといってよいでしょう。トランプ大統領は「非核化は急がないが、包括的な非核化が行われるまでは制裁は継続する」と厳しい姿勢は崩していませんし、北朝鮮側も迅速に非核化に応じることはなさそうです。(その証拠に、すでに北朝鮮政府はアメリカ批判を激化させています) 恐らく、トランプ大統領からのTwitterでの呼びかけに応じ、板門店で第3回米朝首脳会談を行ったというアピールは国内に対してできたでしょうが(そして、国内で高まる金正恩氏の求心力への疑問の払しょくには役立てたかもしれませんが)、実際には「わー、大変だなあ」とこの後の対応に苦慮していることと思います。

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