「働き方改革」によって話題に上ることの多くなった「有給休暇の取得を巡るあれこれ」ですが、「有給休暇希望日が重なった3人のうち、自分だけ取得が認められなかった」として、社員に訴訟を起こされた会社があります。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、その裁判の結末と、そこから企業が学ぶべきことを紹介しています。
3人の有給申請に対して2人だけ取らせることは法律違反になるのか
優先順位をどうつけるのか。これは非常に悩ましい問題です。例えば仕事。よく言われることですが、「緊急度」なのか、「重要度」なのか。それとも「やりたい」なのか。普段の生活でもそうです。あれも欲しいこれも欲しいでも、お金が無い。あれも食べたいこれも食べたい、でも、太る。これらを必死に優先順位つけて、生活しているわけです。
では、これが有給の申請だとしたらどうでしょうか?例えばみなさんの部下が3人同じ日に有給申請をしてきたとします。そこで、3人に優先順位をつけてそれぞれ別の日に取ってもらうことは可能なのでしょうか?
それについて裁判があります。ある配送会社で、社員が有給を申請したにもかかわらずその申請を却下されました。実はその日に別の社員2人は有給を取っていてその社員だけが有給申請を却下されていたのです。そこでその社員は却下されつつも有給を取ったところ会社はその日を欠勤とし給与を減額して支払いました。そこでその社員が会社を訴えました。
では、この裁判はどうなったか?
まず大前提として有給は希望の日に取得させるのがルールです。ただし、その例外として「事業の正常な運営を妨げる場合」は会社はその日にちを変更することはできます(つまり休まれると会社の通常業務に支障がでてしまう場合ですね)。
ただこれは「その日に休まれると忙しくなる」くらいではほぼ認められません。これは実際の裁判でも「年休制度は、ある程度の業務阻害を伴うのは当然でありそれも含めて、会社は有給を取らせるために最大限の努力をすべき」とされています(会社にとっては非常に厳しい話ではありますが)。
となると今回の裁判も会社には厳しい結果になりそうですが、実は、会社が勝ちました。どういうことか?
実はこの日はそのちょっと前に行われたストライキの影響で大量の郵便物が届くと予想されていました(実際に通常の1.5倍くらい届いたそうです)。そこで会社側はそれにあわせて人員配置を行ったのですがそれでも人が足りない状況で、さらに有給取得のために人が少ないという状況だったのです。これを裁判所は「事業の正常な運営を妨げる場合」だったと判断したのです。
では、それ以外の2人には取得させてその社員には取得させなかったことがなぜ裁判所では認められたのか。それは「有給取得の理由」でした。その2人の取得理由は1人が「子供を病院につれていくため」、もう1人が「葬儀参列のため」でした(会社がその日に取得させなかった社員の理由は「組合活動のため」でした)。
そこで裁判所は、前者の2人に取得させたことを「その必要性を認めて有給を取らせると判断したことは合理性を欠くものとすることはできない」としたのです。つまり、「取得理由によってその優先順位をつけることも可」ということで(ただし、もちろん会社が有給を取らせるためにどのような対策をとったかは見られますが)。
いかがでしょうか。有給消化の義務化が開始になり今後は有給がらみのトラブルも増えることが予想されます。実務的には、今回の判例がありつつも、実際に「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断は非常に難しい場合も多いです。であれば、有給消化を前提にせめて取得日がかぶらないようにあらかじめ年間スケジュールをたてるとか対策を考えておいたほうが良いかも知れませんね。
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