『シベリアの力』開通。中国とロシア接近が物語る新しい世界地図

 

中ロのパートナーシップが世界の地政学上の現実を変えようとしていると思われる3つめのポイントは、欧州(EU)の影響力の著しい低下による“第3の対抗軸”の不在です。

2年以上にわたって続くBrexitを巡る混乱は、確実に欧州連合(EU)のintegrityを弱め、一枚岩での対外政策が取りづらくなっていることに加え、確実に欧州各国の経済もスランプに陥れています。

引き金となった英国については、「EUに留まることは何ら経済的な利益をもたらさない」という状況があっての離脱へのかじ取りなのですが、そのあおりはフランス経済のスランプと、度重なる大規模デモによる経済のマヒに繋がっていますし、EUの優等生であるはずのドイツ経済も思いの外、伸び悩んでいる状況で、欧州全体で見た場合、EUは経済的なスランプからまだ回復していません。

ゆえに、Brexitに加えて、経済問題と、拡大しすぎたが故の政策方針の不一致という域内での対応に追われ、ロシアや中国による拡大路線に効果的な対抗策は打てていません。

今週に入って、マクロン大統領とメルケル首相が、ロシアとウクライナの休戦協定締結に向けて一肌脱いだことで、何とかEUの外交力を誇示しようとしていますが、実際にはこの協定もロシア・ウクライナ双方とも満足のいく内容にはならず、Breakthroughを国際情勢に提供するレベルにまで至っていません。ゆえに、ロシアによる他の大陸における欧州各国の権益への浸透は止まらず、また効果的に中国の影響力拡大にも対抗できていません。

ゆえにアメリカは単独で、中ロが画策する国家資本主義の陣営の拡大に対抗しないといけない状況になっているのですが、トランプ政権の方針として、世界中での影響力の保持よりは、国内問題の解決にベクトルが向いていることから、中ロの影響力の拡大への効果的な対抗力を発揮できていません。

このようなポイントが同時に作用することで、世界は再び欧米軸の自由経済陣営と、中ロが推し進める国家資本主義の陣営の2軸に分かれる構造になり、これは第1次世界大戦、そして第2次世界大戦直前の国際情勢と似ていて、国際協調体制・相互依存体制が弱まり、世界は政治・軍事・経済などすべての面においてブロック化する方向に進み、両陣営の力のぶつかり合いによる微妙な、非常にデリケートなバランスに直面しています。

日本の安倍政権は、その外交方針として『地球儀を俯瞰する外交』という、少し理解しがたいコンセプトを打ち出していますが、このような陣営間の力の緊張が顕在化してくる国際舞台において、どのような役割を果たし、今後、どのような位置付けを狙うのか。八方美人的な対処ではなく、しっかりとした戦略を練っておかないといけないと考えます。

朝鮮半島がこのままだと中ロの勢力圏になり、アメリカはもしかしたらアジアに関心がなくなるかもしれません。さて、そのような時、我が国日本はどのようにしてその存在を守るのでしょうか。非常に難しい時代に入ってきました。

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