コロナ禍で変わる日々の散歩とランニングの風景に見つける幸福

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外出自粛中でも、健康維持や運動不足解消のために奨励される散歩やランニング。しかし、公園や川沿いなどのランニングコースを利用する人が増え、そこでも人との距離に注意を払わなければなりません。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の引地達也さんは、日々のランニング風景に変化を感じながらも、目にする家族の姿に「幸せ」を見い出し、メディアからの情報にさらされ不安な気持ちを「浄化」できると、ランニングの効用を綴ります。

メディア機能の一部から堤防の風へ─「走る」「歩く」幸せの一歩

ランニングする人の数が急に増えている。自粛要請の中で、散歩やウォーキングは人との間隔などを配慮することを条件に奨励している向きもあり、「走る」市民の動機付けにもなっているようだ。

たいした趣味のない私でも日課のランニングは趣味の部類かもしれないが、その毎日の行動は頭を整理したり、1日の仕事の流れを確認したり、前日の会議の内容を見直したり、昨晩のメールの文言や会話の中身の真相を思案してみたりの時間と解釈している。ランニング中に思考する内容は、不要なものは消えてしまい大事なものだけが残っていくから、ランニングは頭と心の浄化という行動に近くなってくる。

それを最近は「お勤め」などと言っているが、このお勤めの日々の最近の風景、適度な間隔でそれぞれの大事な人や家族とともに歩き、行き交う光景は、この時期にあっても「幸福」という言葉がふさわしい、と考えている。

私のランニングコースは3コースあって、いずれも川沿いの堤防がコースだから、近くの人が走りたい、散歩したい、と思えば、おそらくそこに立つだろう場所ばかり。新型コロナウイルスの非常事態宣言が出された後から急激に堤防に人が多くなった。ランニングも親連れが目立ち、夫婦の散歩も激増した。

東京都内の生活圏の中にある堤防だから、それは身近な場所への散歩となり、自然と人は集まるから、ここでも適度な間隔は必須だ。そんな過密化した都市で、ウイルスの襲来に翻弄されている私たちだが、青空の下、家族連れで歩いている方々を見ると、そんなことを忘れて幸せな気分となる。

そこには子供たちやお年寄りだけではなく働き盛りの方々も多い。その歩く表情は、毎日の通勤電車で見せる表情とは違って爽やかだ。走っている私にもその幸福感が伝わるから、気持ちがよい。

そして、帰宅してネットを開くとコロナ禍のニュースが飛び込み、たちまち現実的な不安が押し寄せ、リップマンの著書『世論』の冒頭を思い出す。1914年、ラジオもテレビもないヨーロッパのある島でイギリス人とフランス人とドイツ人が仲良く暮らす中、連絡船が運んできた6日前の新聞にドイツとフランスの間で戦争が起こったことをその住民が知った、という話である。

戦争が起こっていることを知らない人にとって、戦争は「起こっていない」のであり、フランス人とドイツ人の間でいがみあいも起きない、という例えから、リップマンは私たちの行動はメディアによって媒介される「疑似環境」で決まる、と導いている。

現在、週間視聴率でニュース番組が上位を占める時世にあって、なおさら私たちの思考と行動はメディアが伝える情報に左右されてしまう状況にあることをまずは自覚したい。その上で私たちがどのように行動するかが問われている。

新型コロナウイルスによる不安な気持ちは大きな渦となって社会を席巻しているが、その不安を取り除こうと、アーティストやアスリートら、その技で人々を勇気づける人たちが立ち上がり、やはりメディアの拡張機能を使って、不安を拭おうと奮闘している。この近代社会の構図を冷静に捉えながら、アーティストやアスリートの声に心で応えられる社会でありたいと思う。

それらメディアから届くさまざまな声の中で本当にやさしいもの、本物の声が何かを考えて受け入れていく。その受け入れられる純粋な思いを大切につないでいきたい。

おそらく、堤防を風に吹かれて歩いていると、さまざまな情報から「浄化」された純粋な「本当のやさしいもの」が分かってくるような気がする。こんな時だからこそ、外で歩く一歩一歩や一緒に歩く人を大事にしたい。きっと、その一歩に幸せが宿していることを実感できるはずだと思う。

image by: shutterstock

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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