「三密」という標語がうまくできすぎていたための弊害とは何か?

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新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合の相談・受診の目安から「37.5度以上の発熱が4日以上続く」の表記が削除されました。わかりやすい基準がミスリードを招いたことによる修正でした。「三密」についても「標語」としてよくできすぎていたため誤解を招いたと指摘するのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。山崎さんは、その後の感染拡大の実態から「三密回避」どころか「二密」も回避しなければならなかったと主張。わかりやすい言葉には落とし穴があることを肝に銘じるべきと呼びかけています。

三密のこと

「三密」を避ける。3月に入って政府が具体的に国民に対して指示したSARS-CoV-2予防策だ。

2月のクラスター対策班による不断の努力により、
「密閉空間」
「密集場所」
「密接場面」
の三つの状況が重なれば、クラスター発生の確率が高くなるということが分かったからだ。より正確に言えば、個々の患者の感染もとを遡って行った結果「三密」的状況に辿り着いたということであろうが、当時の混乱した状況を考えれば科学者集団らしい見事な分析であった。

この成果を受けての政府の「三密」回避指示という訳である。実はこの「三密」という標語を初めて聞いた時、自分は何となく危うさのようなものを感じたのである。どうにも、うますぎるのである。

そもそも「三~」という日本人好みの言い回しからしてそうである。さらに言えば所謂「三密」も「密閉」「密集」「密接」と、「密」の字を頭に韻を踏み見事に熟語をなしている。それに続く場の説明においても「空間」「場所」「場面」と、重複することなく列挙し見事としか言いようがない。

それに「三密」と言えばそもそも仏教(密教)用語でもある。耳馴染みのあった人も少なくないのではないか。やはりうますぎる。裏方に広報のプロの顔が見え隠れするのは自分だけだろうか。

ともあれ標語自体が定着しやすいのはいいことである。いいことであった筈である。ところが現実にはこれが裏目に出た。「三密を避けて」という言い回しがあまりに語呂がよかったために瞬く間に日本中のあらゆるメディアに拡がり、出演者や関係者の定型挨拶文としてすっかり定着してしまったために「花粉に注意」「暑さに注意」といった時候における注意事項程度の重みしかなくなってしまったのである。危険度が希釈されたのである。

さらに「三密を避けて」という標語の当然の発展形として「三密以外は安全」という楽観的解釈が生まれる結果となった。これを助長したのが三密を円で表わした、あの図の存在である。上方に「換気の悪い密閉空間」の円、下方向かって左側に「多数が集まる密集場所」の円、その右側に「間近で会話や発声をする密接場面」の円が描かれ、その三円が重なる真ん中の小さなルーローの三角形部分(即ち、三密)さえ避ければ安心、といった誤解を与えてしまったのである。

感染症対策の基本は最悪に備えることである。であるなら、二円の重なる、逆さ三つ葉型の領域から警戒回避させるべきであった。つまり、
「三密」…ブラックゾーン(絶対回避)
「二密」…レッドゾーン (警戒回避)
「一密」…イエローゾーン(警戒)
とすべきだったのである。

結果論にはなってしまうが、欧米経由の第二波である「ステルスコロナ」は「三密回避」くらいのことでは到底太刀打ちできるものではなかった。実際、現在言われているところの「social distancing」と「三密」はおよそ共起するものではない。

我々は容易にミスリードされるし、ミスリードをしもする。感染拡大が寛解期に入りつつある今だからこそ、これを肝に銘じて常に冷静でいたいものである。
「Stay Home」「Stay Safe」and「Cool Head, but Warm Heart」

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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