どうしてトランプはマスクを拒否するのか?
トランプの「マスク嫌い」は有名ですが、とにかく各州でガイドラインを決めて公共の場所ではマスク着用をという規制をかけても、大統領自身が守らないのですから、話になりません。
一体どうしてなのかと問われた際に、トランプの答えは2パターンあるようです。1つは「うるせえな。お前らフェイクメディアの見てないところでは、ちゃんとしてたんだ」と開き直るもの、そして最近出てきた2つ目のものは「俺様は、お前らフェイクメディアの喜ぶようなネタをやる気はないね」というものです。
とにかく頑固なまでに「公衆の面前でのマスク着用は拒否」ということなのですが、一体どうしてなのでしょう?
まずは、アメリカの保守カルチャーの中にある「マスク嫌い」というのがベースにあります。そのルーツは、そもそもは西部劇だと言えます。つまり、マスクをして顔を隠しているのは「悪漢だから撃たれても仕方がない」というのが常識であり、反対に「信じていい人間だというアピール」のためにはマスクはしないということになります。
究極は、赤いバンダナを巻いて口を隠すファッションで、西部劇では鉄道ギャングの定番スタイルということになっています。正義の存在である合衆国大統領としては、絶対にイヤだと言うわけです。
また、マスクをすると「偉く見えない」ということがありそうです。世界の指導者や元首の中でも、「自分を偉く見せたい」という輩(やから)に限って、他の人々にはマスクをさせるくせに、自分はしないというのがありますが、トランプの場合はその典型例だと言えます。
もっとも、例えば日本の天皇皇后両陛下などは、マスク姿を公開しており、そこでも決してカリスマ性を失ってはいません。お二人の場合は、目線の向け方、立ち居振る舞い、背筋の伸ばし方など、アーチストのレベルと言っていい訓練を受けているので、マスクをしても存在感を損なわないわけですが、トランプの場合はそうした訓練とは無縁ですから、余計に気にするのでしょう。
後は、トランプが自分の「コア支持者」は、「ロックダウン反対」で「マスクも反対」だということを知っていて、これに迎合しているということもあると思います。とにかく、もう経済活動の規制には飽き飽きしたし、初夏になったので、ビーチに行きたい、バーで馬鹿騒ぎがしたい、スポーツ観戦で騒ぎたいという層が、自分の支持層だというわけで、徹底的にそこに馴れ合うことで、支持母体を固めようという作戦だと思います。
ここへ来て、各州の知事は、かなりリベラルな民主党知事でも、このような流れに「逆らうのを止める」動きを始めています。そしてトランプホワイトハウスの「専門家チーム」にあって、大統領の意向に対して全く妥協を見せなかったファウチ博士も、ロックダウンの継続による国民の「心身への悪影響」を考慮すべきだとして、トランプの方針を追認する方向になってます。
ファウチ博士の場合は、人命優先ということについては「筋金入り」であり、それに人生を賭けてきたという信頼があるわけですが、例えば何も考えずに民主党のバイデン候補が「国民はもっとファウチ博士の言うことを聞くべき」などと発言して、自分と大統領の間の矛盾を暴こうとしていることに危機感を持ったのかもしれません。ここで自分が突っ張って、トランプ政権との関係が「ブチ切れ」になっては「第二波対策」が全部破綻してしまうとして、「暫定的に大人の判断」をしたようです。
いずれにしても、「マスク嫌い」で「経済優先」というトランプは、この「メモリアルデー連休」を契機に社会の再オープンへ踏み込みました。これで、改めて感染拡大の悲劇が起きるのか、それとも季節的な要因も効いて事態が好転してゆくのか、現時点では誰にも分からない、それがアメリカの現状です。
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