角栄以来か。河井夫妻「立件」なら安倍首相が問われる「交付罪」

 

筆者が元宿氏の存在を初めて知ったのは、いわゆる「日歯連ヤミ献金事件」によって、である。

この事件は、参院選直前の2001年7月、当時の日歯連会長、臼田貞夫氏が、橋本龍太郎元首相を領袖とする派閥「平成研究会」所属の組織内候補、中原爽参院議員の再選をはかり、赤坂の料亭で、1億円の小切手を橋本氏に手渡したことに端を発している。野中広務、青木幹雄といった重鎮も同席していた。

このカネの処理については、2002年3月13日の平成研幹部会で話し合われた。結論は、領収書を出さず収支報告書にも記載しないということだった。

一つの団体から1億円もの寄付を受け、選挙に使えるマネーがドンと増えたのはいいが、それを平成研の政治資金収支報告書に記載すると、日歯連との癒着が非難のマトになる。だから裏金にしておこうというわけだ。

実務は平成研の金庫番、瀧川俊行氏にゆだねられたが、日歯連から領収書を求められ、瀧川氏は困惑した。収支報告で無かったことにするカネの領収書を平成研の名で出すことはできない。どうするべきなのか。

瀧川氏は自民党本部に出向いた。元宿事務総長に相談するためである。そのときの二人の密談内容は、のちの裁判で、瀧川氏が検察側の尋問にこたえて明らかにしている。

瀧川 「平成13年に日歯連から1億円の献金を受けております。これは領収書のいらないものだと思っていたが、発行の要請があって、幹部会に諮ったところ、発行を見合わせるようにということになり、もし(日歯連に)断られたら知恵はないですか。国政協の領収書でも切ることはできないですか」

 

元宿 「そのカネはどういうふうに処理したんだ」

 

瀧川 「平成研の口座に積み、その後、現金化して、平成研の経費として使っていた」

 

元宿 「それでは、もう領収書は出ませんね」

ここまでは、日歯連からの1億円を自民党の政治資金団体「国民政治協会」を通じた迂回献金として国政協名での領収書発行ができないかという相談ごとである。

国民政治協会は、各種団体が、特定の自民党政治家への献金をカムフラージュする「迂回献金」のトンネル団体として使われてきた実態がある。国政協の領収書発行はムリと言われて、瀧川氏は別の方策を打診した。

瀧川 「平成14年、15年に分散して数字を小さくして、平成研の領収書を切れないか。平成13年の参院選前に派閥に1億円の献金では、世間やマスコミから批判される。それを薄めるために14年とか15年に分けて受けたような形で領収書を出すことが可能か」

 

元宿 「じゃあ、相談してみるよ」

なぜこんな古いシーンを今ごろ持ち出すかといえば、自民党本部の実力者でありながら事務方として陰に隠れている元宿氏の仕事の一コマをうかがい知る機会はまずないからだ。たまたま瀧川氏が法廷でぶちまけたため、一端が垣間見えたのである。

河井陣営への1億5,000万円提供という異例の取り扱いを、元宿氏がまったく知らないうちに、自民党本部がおこなったとは思えない。

国政選挙にあたり自民党から候補者に配られるのは公認料と選挙資金合わせて1,500万~2,000万円といわれる。候補者の優劣評価や重視度合いで、いくらか配分額の違いはあっても、10倍もの差は、えこひいきというほかない。

しかるべき筋から話があったがゆえに、元宿氏の指示のもと、破格資金が投入されたのであろう。

河井夫妻に対する広島地検の捜査には東京地検特捜部なども加勢し、いわば検察総がかりで取り組んでいる趣がある。総理補佐官、法務大臣へと、安倍首相が取り立ててきた河井克行氏が、かりに逮捕、起訴されるような事態になれば、安倍首相の政治責任は重大である。

安倍首相は「全て党の執行部に任せている」と国会などで述べ、巨額資金提供への関与を否定している。それなら二階幹事長が、安倍首相と打ち合わせることもなく元宿氏を顎で使えるかというと、大いに疑問だ。自民党にはときたま、首相をしのぐ実力者が幹事長になることが過去にあったが、二階氏はさほどでもない。

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