誰の指図か。自民党防衛族が敵基地攻撃論を持ち出してきた意図

 

ところで、敵基地攻撃能力というのは、具体的には4つの要素から成り立っていると思います。この4つが備わっていないと実際の「能力」にはなりません。

1つ目は物理的な攻撃能力です。例えば北朝鮮領土のミサイル発射基地まで爆撃機を飛ばして戻ってくる、あるいは誘導ミサイルで攻撃する、そうした装備を備えてかつ実際に高精度な攻撃を実施できるだけの練度を確保しておかねばなりません。敵方が超音速機による空中戦で対抗してくるようなら、確実に勝利できるような高性能機で圧倒する必要があり、その場合は空中給油による航続距離の拡大というテーマも出てきます。

2つ目は、情報の収集・発信能力です。明らかに敵基地において、日本へのミサイル攻撃が準備されている場合、その情報を自力で迅速に、そして秘密裏に察知しつつ、仮にその基地への攻撃を実施した場合には、その正当性を国際社会にアピールするために、十分な証拠を公開する必要があります。つまり偵察衛星の運用と分析、更には地上からの人的な諜報活動なども含めて、インテリジェンスの獲得を安定運用する体制が必要です。

3つ目は外交力です。仮に日本をターゲットとしたミサイル攻撃が企図されており、その動かぬ証拠を掴んだとします。その時の政権が迅速な判断をして、切迫した危険から国土と国民を守るために、ミサイル攻撃を未然に防止するために敵基地攻撃を実施したとします。しかしながら、その日本の攻撃は、相手方からすれば「侵略目的の先制攻撃」ということになります。仮にそうした主張で国際世論をまとめられれば、日本は一瞬のうちに孤立してしまいます。そうではなくて、日本側の正当性を魑魅魍魎の世界だる安保理で展開するためには高度な外交力が必要になります。

4つ目は法的な正当性です。憲法の解釈変更、もしくは条文改正を経て、敵基地攻撃を合憲とするような手続きが必要となります。ですが、それは解釈改憲や条文改正してしまえば、それでいいということにはなりません。ここで議論した2つ目、つまり情報力、そして3つ目の外交力を確保することで、攻撃が防衛目的のもの、つまり憲法上の正当性が確保されているということが必要です。反対に言えば、軍事的にも効果があり、外交的にも正当性のある措置に限って合憲とするような憲法の縛りを作っておかねばなりません。

というように、言うのは簡単ですが実際は大きな問題があります。ですから、抑止力ということでも、本当に大変なのです。ですが、これは抑止力のためで、本当の危機の場合には撃たないということを見抜かれてしまったら、抑止力にはならないわけです。ですから、ものすごい高度な化かし合いをしないと、この敵基地攻撃力というものは実際には機能しません。

そして、仮想敵が平壌ではなく中南海だとしたら、その外交上の困難は何十倍、何百倍になると思います。つまり、事実上、この敵基地攻撃ということはあり得ないのです。ということは、敵基地攻撃力を保有するということで抑止力になるということも事実上は絵空事になると思います。

実はそうしたことも、自民党の防衛族は理解しているはずです。では、どうしてそんな危険で難しい話を持ち出しているのでしょうか?

3つの可能性があると思います。

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