新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、自民党内では首都機能移転議論が再燃しているようです。この報道に接し、15年前に危機管理面の担当者として同様の議論に参加していた軍事アナリストの小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、議論ばかり繰り返され何も進まないのは、この国の治ることのない病だと指摘。本当に必要なことを実現できないリーダーシップの欠如を嘆いています。
首都移転か、首都機能移転か
地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の計画撤回から敵地攻撃論が再燃したのと似ていますが、コロナの第2波の兆しを受けて首都機能の移転や首都移転(遷都)の議論も頭をもたげてきました。
「自民党で、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、首都機能を地方に移転する議論が再燃している。東京一極集中を是正し、都市部の人口密集によるリスクを回避するのが狙いだ。
党内では6月に『社会機能の全国分散を実現する議員連盟』(会長・古屋圭司元国家公安委員長)が設立された。政府や企業の本社機能などを地方に分散させることに主眼を置く。年内に提言をまとめる予定で、古屋氏は『東京に集中しすぎて効率が悪い。スリムで稼げる東京を作る』と話す。
かつての首都機能移転論議は、費用負担が課題となったほか、移転候補地以外では盛り上がりに欠け、下火になった。今回は感染症対策でテレワークが広まったことも追い風になっている」(7月25日付読売新聞)
実を言えば、首都機能分散の議論は2004年夏から本格化したことがあります。大阪の伊丹空港を廃港にし、その跡地に国家の危機管理機能を備えた国際都市を建設し、副首都に位置づけようというものでした。民主党の石井一議員が音頭をとり、超党派の議員連盟も発足、私は危機管理面を担当していました。
石井議員が2005年の郵政選挙で落選し、そのあと参議院議員に転じたものの、そこで勢いは途絶えてしまい、今日に至っています。このときの副首都構想については、改めてストラテジック・アイでお伝えしたいと思いますが、今回は一つだけお話ししておきたいことがあります。
それは「定義」の問題です。古くは遷都を想起させる首都移転の議論が戦わされ、その利害得失をめぐって綱引きが行われ、収拾のつかない状態が繰り返されました。そこで「副首都」の構想では、東京の首都機能に抗堪性を備えさせる一方、リアルタイムで東京の機能をバックアップできる副首都を建設し、東京が首都直下地震などで壊滅的な被害を受けた場合でも、日本全体の機能が麻痺しないような構想を描きました。
つまり、首都移転ではなく、首都機能の移転だと厳密に定義したのです。そして、東京と副首都の2個所をハブとして、その機能を地方の中核都市が支え、それが今でいう地方創生につながるという構想でした。インターネットを活用したテレワークの考えも盛り込まれていました。それから15年以上が経過し、何も実現しないままに今日の議論の再燃する様子を眺めていると、まずは定義を明確にし、首相の強力なリーダーシップで実現するという戦略的な姿勢が不可欠だと痛感させられています。
同じ問題は、いまだに1隻も存在しない病院船の構想や普天間基地移設問題など諸課題にも通じており、コロナ以上に深刻な「日本病」という宿痾《しゅくあ》の存在を思わずにはいられません。(小川和久)
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