大阪都否決が縁の切れ目。なぜ菅首相と大阪維新の共同戦線は崩壊したか?

 

大阪市の職員の気持ちもさぞかし複雑だったにちがいない。特別区の庁舎の新設はせず、現在の区役所を活用するが、執務スペースの不足が見込まれる淀川区と天王寺区は、北区の庁舎となる現大阪市役所を間借りするという変則配置だ。腰の落ち着かない仕事環境になりそうだった。

職員の気分が、ある種の反乱めいた動きとなってあらわれたのが、毎日新聞が先んじて報じた市財政局のコスト試算ではないだろうか。

大阪市を四つの自治体に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになった。(毎日新聞2020年10月26日夕刊

「大阪市を4分割するのと、特別区にするのとでは前提条件が違う」と怒った松井市長は東山潔財政局長を呼びつけ、罵倒した。

記者たちを前に、東山局長は額に汗をにじませ、こう言って肩を落とした。

「市長から、捏造だと言われた。単純に割って人口だけ変えるということは(試算の)ルールに基づいていない、公務員がやるべきことではないと。財政局が誤った考え方に基づき試算した数値が市民の皆様に誤解を招く結果となった。あらためまして誠に申し訳なく深くお詫びします」

松井市長は「政治的意図はなかったと信じたい」と言い、東山局長も素直に詫びた形だが、市長と職員の間の亀裂を垣間見たような気がする場面だった。

さて、「維新」はこれからどうなっていくのだろう。松井氏は大阪維新の会代表を辞任、残り2年半の任期いっぱい市長をつとめるが、その後は引退すると言明した。コロナ対策で全国に名を知られるようになった吉村知事が代表を継ぐとみられるが、党務についての技量は未知数だ。

大阪都構想はこれで立ち消えとなり、「維新」から橋下氏に続いて松井氏も去る。看板政策を失った吉村氏が国会議員団も含めて党を率いていけるのかどうか。当面、日本維新の会代表には松井氏がとどまるとはいえ「維新」の先行きが不透明になってきたことは間違いない。

菅首相は、政治状況しだいで「維新」との連立も視野に入れていただろうが、動きにくくなったかもしれない。

image by: 首相官邸

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