世界で強まる日本への不信感。ミャンマー国民弾圧にダンマリの薄情

 

「梯子外し」に出た中国とミャンマー国軍の大誤算

ここで面白いのが、中国やASEAN諸国の反応です。

これまでは、内政不干渉の原則を貫き、表立ったコメントや非難を避けてきましたが、今回の事態を受け、その原則を変えざるを得ない状況になったようです。

まず、中国政府ですが、これまで「よき隣人としてこれからもミャンマーの民主化を支援」というコメントに徹していましたが、2月1日の黒幕説が消えない中、ついにフライン総司令官と国軍の行動および事態のエスカレーションに対して、あからさまに不満をあらわにし、非難を行っています。

一応、“ミャンマーの主権を尊重する”という但し書きは忘れていませんが、完全にミャンマー国軍からは距離を置く姿勢に転じたようです。これは、中国と密接な関係を築いたフライン総司令官と国軍にとっては大きな痛手でしょう。

しかし、忘れてはならないのは、中国はNLDやスーチー女史とも密接かつ親密な関係を築いていたということで、軍の後ろ盾というよりは、本当にミャンマーの“よき隣人”だったということでしょう。

中国にとって、一帯一路政策を推し進めるうえで、インドに隣接し、アジア各国のど真ん中に位置するミャンマーの戦略的な重要性は変わらないため、ミャンマーがこれ以上混乱することは、中国の国益とアジア戦略にマイナスになるとの見方が北京で囁かれています。これ以上の事態の悪化が起こる場合、もしかしたら、黒幕どころか、国軍切りに舵を切るかもしれません。

内政不干渉の原則を貫いていたASEAN諸国については、すでにインドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールがそれぞれにコメントを出し、国軍による民衆への武力行使を全面的に非難しています。

フライン総司令官は、完全に欧米諸国および日本や中国、ASEAN各国などからの反応を読み間違えたようです。

自らをティン・セイン政権の再来のように位置付けたかったようですが、かつての軍による蛮行と圧政の記憶は、国民的英雄のスーチー女史の逮捕・軟禁と、国民の声によって選出されたNLDへの圧力、そして、人権を尊重する姿勢で一枚岩となったアメリカと欧州の体制を甘く見てしまったようです。

そして何よりも、頼りにしていたはずの中国が、フライン総司令官と距離を置き始めたことは、大きな誤算だったのではないでしょうか。

結果としてどうなってきているか。まず、中国やASEAN諸国(特にタイ)と進めてきたインフラ案件が、ことごとく見直され始めています。タイとの工業団地建設プロジェクト(日本も参加)は、突如、ミャンマー側からのキャンセルが入り、その後、なしのつぶてであるようで、タイ政府の高官曰く、「許すことが出来ない事態であり、タイサイドの雇用問題にも発展している。責任ある態度を望みたいが…」ということ。

中国・昆明からミャンマーのチャオピューまでの2本の石油・天然ガスパイプライン建設も、中国としては、マラッカ海峡を通らずに一帯一路パートナー国との資源融通を行える生命線であったにもかかわらず、今回の混乱を受けて、そのプロジェクトの見直しが行われるとのことです。

そして、今、欧米諸国を中心に40社以上(コカ・コーラ社やH&M、Facebookやフランスのトタル社など)が連名で「人権が尊重されない限りは、投資を続行する環境が保障されず、撤退を考えざるを得ない」とのコメントを出して、国軍への非難を強めています。株主からの圧力を受けて本当に撤退をはじめる企業も出ています。

私にとって不可解なのは、大企業が挙って進出している日本の企業が、そこに参加していないことです。早速、欧米諸国からは「日本企業と政府がいうESGは、まやかしか。それとも感覚が鈍いのか…」という嫌味を言われています。

現時点では、本件の出口が見えず、まさに状況は袋小路に陥っているといえるでしょう。悩ましい限りです。

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