唯一、中国からの報復の餌食になる日本が決めるべき覚悟
安全保障・軍事面では、対中包囲網は確実に狭められています。アメリカは、インド太平洋における指揮系統を分散し、中国からのミサイル攻撃に対抗する姿勢を取ることになっています。そして、海兵隊の機能を拡大して、対中衛星前線基地の確保に乗り出す方針です。
今のところ、それに応えているのは南太平洋の島国パラオのみですが、今後、アメリカがこの戦略を展開するにあたり、いかに中国と戦争状態にない国への上陸への同意を取り付けることが出来るかがカギになります。
それはつまり、対中有事の際、アメリカに与する国々は、中国にとっての敵とみなされ、中国からの報復の可能性が出てきますが、その際にアメリカは本気でそれらの国々を護ることが出来、どこまでその覚悟があるのかを試されることになるでしょう。
軍での大きなグランドデザインが描かれていますが、実現可能性は未知数です。
大きな変化があったとすれば、英仏独がそれぞれのフリゲート艦や潜水艦、英に至っては空母(米軍との共同運用)をインド太平洋地域に派遣するということでしょう。
規模としては、残念ながら中国の脅威にはならないでしょうが、本格的に稼働するのであれば、中長期的には、外交・政策面での重要度は高くなるものとおもいます。
直接的に3か国の軍隊がアジアで戦闘に参加することは考えづらいかと思いますが、今後、米軍がアジアシフトを進め、中国との戦闘に入るような場合(特に台湾海峡での衝突と、尖閣諸島での衝突)、欧州の軍は、アメリカ軍が中東や欧州で果たしている役割を肩代わりすることで、アメリカ他の支援を行うことが可能になります。
加えて、欧州各国、特にフランスのインド太平洋国家としての位置付けが明確になり、欧州の対中政策の方向性が明確化することで、中国が容易に武力衝突にシフトしづらい環境を作れると期待できます。
この動きは、バイデン政権誕生直後のNATO同盟国の会合で、歴史的な敵国としてのロシアに加え、中国がNATO共通の仮想敵国に加わったことに現れています。欧州各国は、中国の人権蹂躙や強権的な姿勢に対抗する覚悟を示したといえるでしょう。
とはいえ、アメリカ国防省がすでに公に認めているように、中国がインド太平洋地域に持つ戦力は、アメリカのそれを凌駕しており、特に中国軍のミサイル能力は、大きな脅威となっていることも認識しなくてはならないでしょう。
では、欧米と日本・インド・オーストラリアの対中包囲網としての軍事的な連携が進んでいる中、習近平国家主席の夢の行方はどうなるのでしょうか?
その運命を占うのは、もちろん、習近平国家主席を取り巻く中国国内政治状況にもよりますが、外交的側面では、包囲網を形成する国々がどこまで本気で連携できるかにかかっているでしょう。
実はその懸念は、今回、覚悟を決めたはずのEUに内在します。独仏(英)は前向きに対中包囲網に加わるようですが、中国からの恩恵を受けてきた南欧諸国や中東欧諸国のマインドは、すでに途上国に対する中国支配のモデルでお話ししたように、中国に握られています。
もし、本当に習近平国家主席が夢をかなえるべく、台湾への攻撃を始めるとしたら、包囲網はどこまで効率的に機能するのでしょうか?
そして、その中で、唯一、中国からの報復の餌食になり得るのは、アジアに位置する日本だけです。
その日本は、今後、中国の脅威の影にどう対処し、台湾とどのように付き合っていくのか。
まだその方針は明らかになっていないと思われますが、事態が緊迫度を増す中、さほど残された時間はないものと考えます。
かなり長くなりました。いかがだったでしょうか。またご意見、ぜひお聞かせください。
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