二階幹事長に“血判状”を叩きつけた林芳正議員「仁義なき山口抗争」の舞台裏

 

 

河村氏も「党本部の公認に漏れた方が辞退するのが小選挙区制のあり方だ」と、自分が公認されるのは自明であるかのごとく言い、林氏の自重を求める。

しかし実のところ、二階幹事長は難しい対応を迫られているといえるだろう。

県議26人の「血判状」から推しはかれるように、地元政界はこぞって将来性のある林氏を支援している。下関で林家と対立してきた安倍派の県議でさえ「血判状」に名を連ねたし、林氏の立候補表明会見には、宇部、山陽小野田、美祢、山口の4市長が顔を並べた。

二階氏は他の選挙区でも、自派閥の立候補予定者がからむ公認問題を抱えている。

たとえば、新潟県第2区。現職といえば、比例復活した細田健一氏(細田派)ということになるが、17年衆院選で無所属ながら細田氏に勝った鷲尾英一郎氏が19年に自民党入りし、二階派に所属している。

静岡県第5区も似たような状況だ。ここは17年の選挙で、当時希望の党だった細野豪志氏が圧勝し、自民公認の吉川赳氏は比例で復活したが、その後、細野氏が無所属ながら二階派に入った。自民党籍を持たないのに二階派だ。当然、現職といえば吉川氏になるが、二階氏は細野支援を明言している。

衆議院群馬県第1区には、安倍前首相が推す現職の尾身朝子氏(細田派)がいる。前回は比例区にまわった二階派の中曽根康隆氏も出馬を狙っているが、細田派の実質的オーナーである安倍前首相は「尾身さんが公認候補でなくなることはありえない」と二階幹事長を牽制する。

現職優先を貫くなら、この三つの選挙区では、二階派の候補者がいずれも公認から外れるわけだ。逆に、二階派の候補者を公認する場合は、現職優先の前提が崩れ、河村氏を公認する最大の理由が失われる。二階氏としては痛しかゆしなのだ。

林氏はたとえ無所属で出るとしても勝算があるのだろう。地元では、林圧勝の声さえ出ている。それでも、二階幹事長は林氏をソデにできるだろうか。河村氏が比例にまわり、山口3区は林氏を公認する。そんな手もありうるが、河村氏の感情が許すかどうか。

菅内閣の支持率は一部世論調査で30%を切った。自民党内からは、総選挙の前に総裁選をやるべしという声も聞かれるが、悲しいかな人材が見当たらない。

それもこれも、候補者公認のあり方に問題があったからではないか。適材を見つけ、能力を伸ばしていく努力より、派閥力学や既得権を優先したツケがまわってきているのではないか。

コロナ対策の評判が悪く自民党の退潮が懸念される総選挙である。戦いの総大将である幹事長としては、勝てる候補者を公認したほうがいいに決まっている。自分の派閥とか現職とかにこだわらない冷徹さも必要だ。

情の政治家の一面を持つ二階幹事長は公認をめぐる河村氏と林氏の対立をどうさばくのか、まさしく腕の見せどころと言えよう。

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image by: 首相官邸International Students’ Committee, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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