東京都では自宅療養者が2万人を超え、自宅で亡くなる事例が報告され始めるなど、すでに医療崩壊の様相を呈しています。救急搬送先を探すのに救急隊員が100件以上電話をしているとの報道もあり、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは呆れ返っています。小川さんは、15年も前に痛ましい事件を受けて提案した「たらい回し」回避の自動化が未だにできていないことを嘆き、菅首相がいますぐに官邸スタッフを動かし解決すべきと訴えています。
【関連】世界的エンジニアが提言。深刻な「救急患者たらい回し」を解消する最適解
入院先の決定くらい自動化しろ!
コロナ感染者の病院収容が難航し、通常診療はもとより救急救命にも支障が出ていると報じられて、国家の体をなしていない日本の現状にただ呆れるばかりです。
「新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、救急搬送を要請したコロナ疑い患者のうち、医療機関に受け入れられず現場に30分以上滞在した「搬送困難事案」が、2~8日の1週間に全国で1387件に上り、前週より40%増加していたことが総務省消防庁のまとめでわかった。東京都内では29%増の689件だった。新型コロナ患者の病床逼迫(ひっぱく)で救急患者を受け入れる医療機関の体制が整っていないことが原因とみられる」(8月11日付 毎日新聞)
なかには100件以上に電話をして、ようやく入院できたケースもあります。この問題を解決するには、コロナ専用病棟と医療スタッフの確保などを同時進行で進めなければなりません。
これまで申し上げてきたように、コロナ専用病棟は電通総研で研究主幹を務めた西山邦彦さんが提案されているようなクルーズ客船の活用や、中国が昨年、武漢でやったような突貫工事による専用病院の建設という考え方があります。
スタッフの確保も、政府と日本医師会が協力して全国の医療スタッフの人的資源を配分していけば不可能ではないと、日本医師会の枢要な立場のドクターからも聞きました。現場でコロナと戦っているドクターも、人的資源を適正配分し、優先順位を決めて対応すれば、重症化しない限り、コロナの治療そのものは専門性の高いものではないと指摘がありました。
そこで病院収容の件ですが、私はたらい回しの挙げ句、妊婦さんと胎児が死亡した事件を受けて、周産期医療対策について一つの提案をしました。119番通報が入ると、その地域の病院の空きベッドと対応できる医療スタッフ、そして収容すると決まった病院への搬送手段がリアルタイムで表示されるシステムの構築です。
病院のベッドには、ベッドごとに担当医師と看護師の名札がついていますが、それがかかっていれば使用中、外れていれば空きベッドということで、これをネットでつなぎます。医療スタッフは出勤時のタイムレコーダーで専門科目を含めて投入可能人員を把握し、これもネットでつなぎます。搬送手段は、救急車、ドクターヘリ、消防防災ヘリなどを適切に投入できるよう、こちらもネットでつなぎます。これを自動化するのです。
きわめて原始的な発想ではありますが、これを提案した15年前に比べてITの発達はめざましいですし、AI化も進んでいます。救急車の中からいちいち電話で病院を探すといった救急隊員を消耗させるような現状は克服できるはずです。
これを首相官邸主導でやってみれば良いのです。金のかかる話でもありませんし、東京、大阪などの大都市圏から実行したらいかがでしょうか。私が総務省消防庁に提案したとき、経済産業省からIT担当のキャリア官僚が出てきましたが、やたらと小難しく使えないシステムを頭の中で書いてきて、私はダメを出したことがあります。そういったことも、首相官邸が司令塔の役割を果たす中では解決できると思います。
酸素ステーションもいいですが、菅首相は官邸のスタッフに国家の司令塔らしい仕事をさせてもらいたいと思います。(小川和久)
image by: Shutterstock.com