自民党総裁選が炙り出した、逃げれば「日本破綻」レベルの大問題

 

もう1つは財政規律の問題です。1990年代の経済の急激な下降に対して、特に小渕恵三政権は財政出動で景気の浮揚を図りましたが、空振りに終わりました。日本国のCEOとしてリターンのある投資と、ない投資を見分けることのできなかった当時の官僚と政治が元凶でした。

これに懲りた小泉政権以降の20年、反対に日本は曲がりなりにも財政規律を意識してきたのでした。その点で財務省は一貫していたわけです。その背景には、日本の国家債務が既に危険水域に入っているという認識がありました。1997年に韓国やタイで起きた通貨危機、つまり国債のデフォルトという現象を見て、当時の財務官僚は心の底から恐怖を感じたのです。しかも当時の日本経済はまだまだ大きく、仮に日本が破綻したらIMFも連鎖倒産して世界は大恐慌となる、そんなシナリオも意識されていたのでした。

この想いは、戦前からの悪しき伝統に従って、都市の高学歴層に強く、従って中道左派的な属性を持っていました。例えば2009年から3年にわたって国政を担った民主党政権は世界的に見れば超タカ派の経済財政政策を採用するなど、財政規律については厳格な志向を持っていましたが、これも自分たちエリートがしっかりしないと国家が破綻するという知的でロマンチックな悲観論が背景にありました。

ですが、これを批判して登場した第二次安倍政権は、確かに金融緩和は行ったのは事実ですが、投資姿勢は保守的なままであり、菅政権もその延長にあるわけです。

ただ、これには批判もあります。例えば、日本の国家債務が危険水域に深く入り込んでも超円安が起きないのは、巨大な国債発行残高が国内の個人金融資産で消化できているという神話があります。これに加えて、2010年代からは。MMT理論、つまり政府の貨幣発行は資本金の増資のようなもので、弊害はないという新興宗教のような話が世界で流行しており、これに乗っかる議論も見られるようになっています。

更に、こうした動きにプラスして、コロナ禍に対抗した財政出動については、中国、アメリカ、欧州ともに限界一杯のカネを突っ込み始めています。ということは、いくら国家債務では劣等生でも、日本の通貨というのは「比較すると優等生」であり、何もしないと「すぐに円高になる」体質、つまり比較優位があるという感覚も出てきました。

そんな中で、今回の政局ではこの「財政規律という縛り」を解き放つ動きが見られるようになりました。まず高市早苗氏が「アベノミクスの継承」を言いながら、第3の矢である構造改革の旗は下ろしつつ「プライマリーバランスを崩し」てでも「危機管理投資・成長投資」を行うとしています。「成長」の2文字が入っていますが、民間の経済人と経営感覚を共有しながら議論したはずはなく、どうせ官僚の作文に乗っただけでしょうから、結局は小渕レベルの捨て金になる危険を感じます。

それはともかく、高市氏の「プライマリーバランスにこだわらず」という言葉は、インパクトがありました。ご本人はその重さも何も、分からずに唱えているというのは、アベノミクス当時の安倍さんも同じですが、とにかくこの言葉は、過去20年の呪縛を解き放つ魔法の呪文であったことは事実のようです。ですから、これが突破口となったようで、野党勢力も20から50兆円の「真水の経済対策」などと言い始めたわけです。

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