米Microsoftの100人以上のメタバース人材が流出し、うち40人がMeta(旧Facebook)に移籍したそうです。大きな出来事のように聞こえるものの「米国では日常茶飯事」と語るのは、メルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さん。会社の方針転換などをきっかけにした人材の流動化が技術移転を生み、業界全体としてプラスに働くと解説。今回もMetaはMetaで既存の技術者が大量に移籍しているという情報を伝え、日本が競争力を失った理由は、人材の流動性不足にあると指摘しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
世界の未来を予測するエンジニア・中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ
私の目に止まった記事
● マイクロソフト、メタバース人材が大量流出 多くがフェイスブックに(小久保重信) – Yahoo!ニュース(個人)
Microsoftの Hololens チームから100人以上の技術者が流出し、そのうち40人がMeta(旧Facebook)に移籍した、というWall Street Journalの記事です。
● Microsoft Hit by Defections as Tech Giants Battle for Talent to Build the Metaverse – WSJ
センセーショナルに聞こえるかも知れませんが、この業界では日常茶飯事です。米国のテック業界は、こうやって人が移動することにより、企業から企業への技術移転が行われ、それが業界全体にとって大きなプラスになっています。
特にこのケースでは、Microsoftの中でHololensプロジェクトのビジョンが揺らいでおり(Report: Microsoft HoloLens 3 is dead as its mixed-reality vision implodes | PCWorld)、それに不満を持った技術者が活躍出来る場を求めていち早く動いた、および、それをチャンスと見たライバル会社がヘッドハンティング攻勢をかけた結果だと思います。
日本がこの業界で競争力を失っている理由の一つが、人材の流動性不足です。例えば、ソニーは2006年にロボット犬aibo事業から撤退しましたが、(米国ではあたりまえの)そこからエンジニアが飛び出してロボット・ベンチャーを作るようなことは起こりませんでした。
ちなみに、私の知り合いから入ってきた情報によると、MetaはMetaで、今回の会社の方向転換に不満を抱いたエンジニアたちが大量に抜けているそうです。
以前にも書きましたが、MicrosoftのHololensプロジェクトが迷走しているのは、Microsoftがエンタープライズ(Office365、Azureなど)とエンターテイメント(Xbox)という大きく異なるビジネスを一つの企業として運営しているからに他ならないと思います。
エンタープライズに集中するのであれば、Metaのことは無視して、軍隊・整備・医療向けにHololensをとことん展開するべきなのです。上のWall Street Journalの記事によると、US Army向けのプロジェクトが技術的障害のためにうまく進んでいないそうですが、その程度の問題でビジョンが揺らぐようでは、Hololensプロジェクトそのものを進める意義がありません。「軍用がうまくいかないならゲームで」という逃げ道があることが、ビジョンを揺るがせているのです。
エンターテイメント側では、(ソニーと同じように)Xboxの延長としてVR/ARグラスを提供するのは理にかなっていますが、その場合は、MetaよりもRobloxやFortniteを強く意識した上で、コンテンツで勝負をかけるべきだと思います。
image by:The Art of Pics/Shutterstock.com
世界の未来を予測するエンジニア・中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ
初月無料購読ですぐ読める! 2月配信済みバックナンバー
- 週刊 Life is Beautiful 2022年2月22日号:NFTゲームのビジネスモデル
- 週刊 Life is Beautiful 2022年2月15日号:Meta(旧 Facebook)が抱える問題点(2/15)
- 週刊 Life is Beautiful 2022年2月8日号:自社製チップと粗利益率(2/8)
- 週刊 Life is Beautiful 2022年2月1日号:Netflixと放送革命の最終章、Voicy はじめました(2/1)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
実はこれまでに配信されたバックナ
▼2021年12月
・エンジニアから見たNFT(12/28)
・教育ゲームと人工知能(12/21)
・デジタル庁に向けた提言(12/14)
・ドローンベンチャーを立ち上げた(12/7)
12/7号では、「ほとんどの人にとって『メタバースの中の方が
▼2021年11月
・Waymo vs. Tesla(11/30)
・日本社会を浄化する「もの言う株主」(11/23)
・日本政府が「脱石炭」に賛同出来ない理由(11/16)
・FacebookのMetaverseに感じる違和感(11/
・人生の岐路とドローンベンチャーの話(11/2)
日本政府が、気候変動を防ぐ「脱石炭」に賛同しない本当の理由と
▼2021年10月
・M1 Pro・M1 Max の写真に隠された秘密(10/26)
・NFTアプリの開発を始めました(10/19)
・リモート・ワーク(ハワイ編)(10/12)
・3Dプリンタ、三週目(10/5)
ドローンベンチャー立ち上げと資金調達の裏話(10/26号)、
▼2021年9月
・3Dプリンタ、二週目(9/28)
・3Dプリンタ(9/21)
・【特別増刊号】私が米Ginkgo Bioworks社に投資した理由。未上場ユニコーンの株主にな
・日本の半導体ビジネスの興亡(9/14)
・自動車に設置した Apple AirTag(9/7)
優秀なソフトウェアエンジニアは、DIYも一味違う? 9/21号と9/28号では、3Dプリンタを購入した中島氏が、
▼2021年8月
・「ハワイに自動車を送るミッション」という「大ボス」を倒した
・Tesla AI Day(8/24)
・ファクターXとデルタ株(8/17)
・救急搬送支援アプリ(8/10)
・量子コンピュータ(8/3)
8/3号では、近い将来、世の中を大きく変える「量子コンピュー
▼2021年7月
・日本に政権交代が必要な理由とその実現方法について(7/27
・インフルエンサー・ビジネス(7/20)
・オプション取引:Covered Call(7/13)
・Windows 11(7/16)
7/20号では、シアトルで日本料理レストランを経営する料理人
▼2021年6月
・TMSC(6/29)
・米国の新しい休日(6/22)
・デジタル法定通貨(6/15)
・ゾーンの話(6/8)
・IOCと東京都の間の契約書(6/1)
6/8号のテーマは、プログラミングやビジネスが驚異的に捗る、
▼2021年5月
・自動運転の難しさ(5/25)
・SNLに出演したElon Musk(5/18)
・Practical Solution(5/11)
・チップの歩留まりの話(5/14)
「サッカーボールが道路に転がってきたら、ブレーキをかけてスピ
▼2021年4月
・5Gネットワーク(4/27)
・若者よ野望を抱け(4/20)
・ARのキラーアプリ(4/13)
・WWDC(4/6)
4/20号の質問コーナーでは、「健康投資としてどんなことをし
▼2021年3月
・ARK Invest(3/30)
・グラフ描画アプリ(3/23)
・半導体不足について(3/16)
・蓄電テクノロジー(3/9)
・9歳の少年とゴルフ(3/2)
3/16号は、2022年もつづく半導体不足がテーマ。新型コロ
▼2021年2月
・自動運転の近未来(2/23)
・理想的なリモート・ワークスタイルを求めて(2/16)
・Clubhouseで起こる「奇跡の出会い」(2/9)
・2040年の未来:農業・畜産業(2/2)
著者の中島氏が2040年の未来を考えるシリーズ。2/2号では
▼2021年1月
・2040年の未来:生体プログラミング(1/26)
・ソフトウェアに飲み込まれる自動車業界(1/19)
・米国で起こっているカオス(1/12)
・mmhmm 開発日誌(1/5)
・【新年特別号】2021年は「AIに仕事を奪われる」最初の年
1/1号では、「今後10年で仕事の大半が人工知能に奪われる」