「対ロ制裁に意味なし、話し合いを」という中国の主張が合理的な証拠

 

繰り返しになるが、そこにあるのはロシアの天然ガスなど、エネルギーなしでヨーロッパ経済を数年間動かすのは難しいという現実である。

4月22日付『ワシントン・ポスト』は、「リモートワークとエアコンの温度設定でプーチンのメッキをはがそう」と題した記事を掲載しているが、本来、そんなことで乗り切れる話ではあるまい。むしろプーチンの狙いは着々と成し遂げられつつある。

ブリューゲル社に所属する4人の研究者(ニクラス・ポワチエ シモン・タリアピエトラ グントラム・B・ウルフ ゲオルグ・ザックマン)の論文(『フォーリン・アフェアーズ』2022年4月号)「経済制裁対ロシアの資源ツール── 変貌する欧州とロシアの経済関係」。そのなかで「長期化するにつれて、モスクワの分割統治戦略が成功する見込みは高まってゆく」と指摘している。

また、同じ論文誌に掲載されたジャーマン・マーシャル財団レジデントフェローのリアナ・フィックスとカトリック大学のマイケル・キメージ教授(歴史学)の論文「激変する欧州安全保障構造── ロシアのウクライナ支配がヨーロッパを変える」でも「ウクライナにおけるロシア勝利のシナリオは絵空事ではない」と警告を発しているのだ。

西側メディアではよく、経済制裁によりロシア国民が困窮し、その不満が最終的にプーチン大統領へと向かい政権が崩壊するというシナリオを見かけるが、そのリスクは欧州にとっても他人事ではない。しかも西側の制裁にも隠し玉かあるように、ロシアにとってもエネルギーと穀物以外にチタン、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、木材などを使って欧州を揺さぶることも可能だ。国によっては原子力発電もそうだ。

一方、アメリカはどうだろうか。

プーチン大統領は4月19日、「対ロシア経済電撃戦は失敗した」述べ、返す刀で西側の指導者たちはインフレをウクライナ戦争のせいにしているという趣旨のことを語った。いわゆる「プーチン・プライス・ハイク(インフレはプーチンのせいという考え方)」への反発を述べたのだ。

本メルマガでもアメリカの戦略の巧妙さと強かさは何度も触れてきたが、そもそも戦争によるインフレの影響が深刻化するのはもう少し先の話だ。

インフレは戦争とは関係ないところで始まっていたからだ。コンテナ不足や輸送インフラの欠乏、生産現場の人手不足、コロナ禍から脱却した世界の需要に供給が追い付かなかったことなどが原因として挙げられる。

そういう意味ではウクライナ戦争がひと段落してもすぐにインフレが収まるとも考えにくいのだ。また、さらに問題はロシアが失った市場にアメリカが入り込むというシナリオも、その通りになっているとはいえなさそうなのだ。

例えば、穀物はロシアからの禁輸で空いたスペースにアメリカの生産者が入り込もうとしても簡単ではない構造が明らかになり始めている。ロシア産の肥料の値上がりやエネルギー価格の上昇のためで生産者は二の足を踏んでいるのだ。

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