日本に得るものなし。従軍慰安婦問題への反論が世界に広げる誤解

2022.05.25
 

日本は歴史的に「国際世論戦」に弱いとされている。古くは満州国建国を巡って日本は中国に敗れて孤立し、最終的に国際連盟を脱退する事態に至った。韓国との関係では、2019年4月に世界貿易機関(WTO)を舞台に韓国と「東日本産水産物の禁輸措置の解除」を巡って争い、日本が敗れた。そして、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」も、国際世論戦の側面を持っているのだ。

ただし、韓国が仕掛ける国際世論戦と真っ向から戦えというつもりはない。それ以前に、日本にとって大事なことがある。まず、私が英国在住時に会った、ある英国人の学者のコメントを紹介したい。

それは、「日本、中国、韓国はなぜ1回戦争したくらいで、これほど険悪な関係なのか。英国や他の国で催されるレセプションやパーティーで、日中韓の大使が非難合戦を繰り広げているらしいじゃないか。会を主催する国に対して失礼極まりないことだ。英国とフランスは、百年戦争も経験したし、何度も戦った。ドイツ、スペインとも戦った。勝った時もあれば、負けたこともある。欧州の大国も小国もいろんな国同士が戦争をした。それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」というものだった。

要するに、どんな国でも歴史をたどれば「スネに傷がある」ものだ。それにこだわっていても仕方がないではないか。ましてや、関係のない他国を舞台に喧嘩をするなど愚の骨頂だというのだ。

私は、英国で7年間生活し、「人権意識」が高い学者・学生が世界中から集まっていた大学に身を置いたことがあるが、欧州で日本の過去の振る舞いを理由に、現在の日本を批判する人に、個人的には会ったことがない。

確かに従軍慰安婦問題は、今でも世界のメディアで「性奴隷」と表現されている。ただし、それは、あくまで「過去の戦争における負の歴史」という扱いでもある。戦争が繰り返された欧州であれば、どこの国にでもある「過去」だということだ。「現在の日本」まで特別に責められているわけではないということだ。

言い換えれば、世界が関心を持っているのは「現代の女性の人権」である。従軍慰安婦問題に様々な反論を試みることで現在の日本が疑われているのは、いまだに女性の人権に対する意識が低いのではないかということだ。

例えば、安倍晋三元首相がかつてよく言っていた「強制はなかった」「狭義の強制、広義の強制」という主張などは、海外からはよく理解できない。そういう細かな主張をすればするほど、「日本は、いまだに女性の人権に対する意識が低い」という誤解を広げてしまうだけなのだ

韓国が熱心に行っている世界中での慰安婦像の設置についても、過剰に反応しても日本が得るものはない。なぜなら、慰安婦像を受け入れる国の人は「過去の日本」の振る舞いを責めようとしているのではない。「女性の人権を守るための像」だと理解するから、設置を認めているのだ。

例えば、米サンフランシスコ市が慰安婦像の寄贈受け入れを決めた時、大阪市の吉村洋文市長(当時)が、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送ったことがあった。これに対して、ロンドン・ブリード・サンフランシスコ市長は、解消決定を「残念」とした上で、大阪市との人的交流を維持する考えを示した。

ブリード市長は、慰安婦像について「奴隷化や性目的の人身売買に耐えることを強いられてきた、そして現在も強いられている全ての女性が直面する苦闘の象徴」「彼女たち犠牲者は尊敬に値するし、この記念碑はわれわれが絶対に忘れてはいけない出来事と教訓の全てを再認識させる」と声明を出した。

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