日本に得るものなし。従軍慰安婦問題への反論が世界に広げる誤解

2022.05.25
 

ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題であり、現在も存在する「性奴隷・人身売買」など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解していたように思う。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、「現在の日本」を批判はしていない。だから、今後も日本との交流を続けたいと表明したのだ。

おそらく、吉村市長の怒りはブリード市長にはまったく伝わっていなかっただろう。女性の人権を守るのは政治家として当然のことなのに、いったい何を一方的に怒っているのか、さっぱり分からないと思っていたのではないか。ましてや、突然の姉妹都市解消の通知には「60年という姉妹都市の歴史を断ち切るほどの問題なのか?」と、ただあぜんとしていたと思う。結局、吉村市長は、世界中から「人権意識の低いポピュリスト」だという「誤解」を受けるだけとなってしまった。

日本は、確かにかつて戦争を起こした「ならず者国家」としての負の歴史を背負っている。一方で、日本は戦後70年間、平和国家として行動し、負の歴史を償おうとしてきた。そのことは世界中に認められている。英公共放送「BBC」の調査で示されたように「世界にいい影響を与える国」と高評価してくれる人々が、世界中に増えてきているのも事実だ。

その意味で、たとえ「ならず者」と呼ぶ人がいても目くじら立てることなく謙虚に受け止め、「いい影響を与える国」と言ってくれる国が1つでも増えるよう、誠意のある行動を続けていけばいいのではないだろうか。

具体的に、日本がこれからどう行動すべきかを考える。私は、岸田文雄首相が従軍慰安婦問題や元徴用工問題について直接、韓国民に会って話をしたらいいと思う。岸田首相が持ち味の「聞く力」を発揮すればよい。

岸田首相は、元慰安婦・元徴用工の方々に謝罪する必要はない。日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない。しかし、両国の間に「不幸な歴史」があったこと、少なくとも「侵略された」韓国側が、より民族・国家としての誇りを深く傷つけられていることを率直に認めるほうがいい。そして、その不幸な歴史に「心が痛みます」というメッセージを発し、世界中のメディアに発信する。

そして、これをもっと発展させた提案をしたい。岸田首相は、「岸田平和人権宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信するのだ。そして、「日本は戦争をしない。戦時における女性の人権侵害という不幸な歴史を二度と繰り返さない」と宣言するのだ。

続いて、現代の日本は「人権を世界で最も守る国になる」とアピールし、「岸田人権マニフェスト」を発表する。現在、日本は人権問題について世界から批判を受けている状況にある。それらを、岸田首相が「自らの任期中に一挙に解決する」という決意を示すのだ。それは例えば、次のさまざまな問題の解決の宣言である。

  1. 数々の企業の上級・中級幹部における女性の割合が諸外国と比べて低いことの改善
  2. 「下院議員または一院制議会における女性議員の比率、190カ国のランキング」で、日本が166位であることの改善
  3. 国際連合女子差別撤廃委員会から「差別的な規定」と3度にわたって勧告を受けている夫婦同姓をあらためて「選択的夫婦別姓」の導入
  4. 「女性差別撤廃条約」の徹底的な順守を宣言
  5. 国連の自由権規約委員会や子どもの権利委員会から法改正の勧告を繰り返し受けている婚外子の相続分差別の撤廃
  6. 外国人技能実習生の人権侵害問題の解決などによる、多様性のある日本社会の実現
  7. 同性結婚などLGBTQの権利の保障

尚、国連に対して、日本に勧告を出すようロビー活動を行っている組織・団体には、さまざまな問題があるものもあるという。「岸田人権マニフェスト」は、そのような組織・団体から日本政府に対する圧力が続くのを断ち切るために、先手を打つという意味もある。

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