もともと維新は、経済は新自由主義的、外交・安全保障は右派的なスタンスをとってきた。同党の松井一郎代表(大阪市長)は、安倍氏やその公認の菅義偉前首相らと親交が深い。「一応」野党の立場にありながら、同党は長く「自公維」ともくくられてきた。
だが、昨秋の岸田政権発足以降、維新は急速に政権から距離を置き始めた。参院選をにらんだ戦略、という単純な理由ではないだろう。実際に維新にとって、今の岸田政権は居心地が悪く映るのだ。松井氏は5月の日本経済新聞のインタビューで、岸田政権の改革姿勢の評価を聞かれ「やる気がない。やがて有権者から批判もあがるだろう」と切り捨てた。馬場伸幸共同代表は国会質疑や記者会見で、岸田内閣について「『無策無敵内閣』とネーミングしている人もいる」などと、当てこすった言い回しを繰り返している。
維新は2日に発表した参院選公約に、全国民に最低限の所得を保障する、いわゆるベーシックインカム(BI)の導入を盛り込んだ。BI自体は論者によって評価に濃淡があるが基礎年金や児童手当の廃止を伴う、ある意味アベノミクス以上に「自助」「自己責任」的な色彩の強い施策だ。岸田政権が打ち出した厚生年金などの加入者を拡大する「勤労者皆保険」などを「実現不可能」と断じている。
外交・安保については、半年前の衆院選の公約になかった憲法9条の改正に言及。憲法への自衛隊明記や緊急事態条項の創設を提唱したほか、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額、核共有を含めた拡大抑止に関する議論の開始などにも言及した。自民党以上に右派的な方向に踏み込んだと言える。
やや中道リベラル寄りに「見える」岸田政権には最近、ネット上などで保守派からの批判が強まっている。維新はこの流れに乗り、安倍氏を熱狂的に支持してきたような保守層の支持を取り付けようとしているわけだ。
参院選で岸田政権と対峙する立憲民主党と日本維新の会だが、岸田政権を「安倍と同じ」とみるか「安倍から変質した」とみるかの違いはあっても、つまりはどちらも「現政権(岸田)の向こうに前々政権(安倍)を見て」選挙戦略を立てているかに見える。
辞任から2年近く、政界は結局「安倍の残滓」をまだ消すことができない、というわけか。そして当の岸田首相は、こんな状況の中でいつまで埋没している気なのだろうか。
image by: 安倍晋三 - Home | Facebook