平和ボケした国民と政治家たちの罪過。ウクライナ侵攻で明らかになった日本とドイツの類似点

 

そんな両国だから、当然、エネルギー安全保障も欠落しており、特にドイツでは、ガスは55%、石炭は45%、石油は34%と、どっぷりとロシアにエネルギーを依存していたのに、誰も別に何とも思わなかった。

それどころか、ウクライナ戦争が勃発していなかったら、今頃、ロシアからドイツへの2本目の直結海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」がつつがなく稼働し、ロシアへのガス依存は70%を超えていたところだ。

ドイツのガス需要はそうでなくても大きい。発電や各種産業だけでなく、一般家庭の半分が暖房に使っているから、ひとたびガスが逼迫すれば、産業は2週間で瓦解し、冬なら凍死者が出る。そういういわばライフラインの70%をロシアに任せようとしていたわけだから、やはり常軌を逸していた。

しかも去年の暮れ、すでにガスの逼迫・高騰が始まっていたというのに、ドイツは6基残っていた原発のうちの3基を予定通り止めてしまった。そして、現在稼働している3基も、やはり今年の暮れに止める方針を変えていない。

原発の稼働を延長するくらいなら、石炭火力を動かした方がまだましというのが、現在、ドイツの与党を仕切っている緑の党の闇だ。

ただ、残念ながらここでも日本は似ている。経済はすでに落ち込み、食糧の自給率は壊滅的に低く、外国資本に土地も産業もどんどん買われていく。

その上、賃金が増えないのにインフレが来そうだし、もうすぐ電力不足で工場を止めなければならないかもしれないというのに、それでも「原発は危険すぎる」のまま思考停止。すぐに動かせる原発さえ動かさない。自ら国を疲弊させているとしか言いようがない。

ドイツでは、2月の臨時国会から3ヶ月が過ぎた5月31日、ようやく国防費1000億ユーロが国会を通った。最初の勢いは少し削がれ、1000億ユーロは5年で使い、また、国防費をGDPの2%に保つための予算もここから捻出することになった。

それでもこれで、飛行機は飛ばない、戦車は動かないという何十年も続いていた連邦軍の惨状は次第に改善されるだろう。

なお、特筆すべきは、この1000億ユーロが「特別財産」と銘打たれていることだ。初めてそれを聞いた時、予備費か、あるいは政府の隠し財産でも出てくるのかと思ったら、何のことはない、「特別ファンド」という名の新たな借金である。

ただ、そのままでは財政赤字が拡大し過ぎて、財務省を受け持つFDP(自由民主党)の「緊縮財政」という公約が守れなくなるため、呼び方を変えて通常の予算に計上されないようにしたらしい。つまりドイツでは、時に「借金」が「財産」になる。

日本にも借金は山ほどあるが、幸か不幸か、なかなかこういう真似はできない。ドイツと日本にも、やはり似ていないところはあった・・。

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

image by : 内閣官房内閣広報室CC-BY-4.0

川口 マーン 惠美

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