ペロシ訪台という米国の大戦略的ミス。中国と揉めている暇などない現実

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中国の再三に渡る牽制にも聞く耳をもたず、8月2日に台湾を訪問したペロシ米下院議長。メンツを潰された形の中国は激怒しましたが、この訪台はどう評価されるべきなのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、「大戦略的ミス」としてその理由を解説。ウクライナ戦争で実質ロシアと戦っているアメリカが、この状況下で中国までをも刺激する愚行を批判しています。

ペロシの台湾訪問とアメリカの大戦略的ミス

さて、今回は、ペロシさんの台湾訪問と、アメリカの大戦略的ミスについてです。

アメリカのペロシ下院議長は8月2日、台湾を訪問しました。3日、蔡英文総統と会談しています。激怒した中国は4日から、台湾を取り囲むように6か所で軍事演習を行いました。

皆さんご存知のように、私は台湾の味方です。しかし、アメリカのやっていることがすべて「大戦略的に正しい」とは思いません。

今回は、アメリカの「大戦略的ミス」について考えてみましょう。

NATO拡大とアメリカの大戦略的ミス

「リアリズムの神」ミアシャイマー教授は、ロシアのウクライナ侵攻について、「アメリカに責任がある!」と断言しています。要するに、「プーチンを無視して、NATOを拡大しつづけたアメリカの責任だ」というのです。

証拠↓
世界的な米国際政治学者・ジョン・ミアシャイマー「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!」【日本語字幕付き】(YouTube)

「あのミアシャイマーが、アメリカを批判し、ロシアを擁護している!」

これは、ロシア擁護派、反米派に大いに利用されています。しかし、大昔からミアシャイマーの言動を追いつづけてきた人たちには、彼の真意がわかるでしょう。

ミアシャイマーは、2001年に『大国政治の悲劇』を出版した当時から、「アメリカ最大の仮想敵は中国である」と主張しつづけてきました。今になって、ミアシャイマーの予測が正確だったことがわかります。

そして彼は、一貫して「中国に勝つために、ロシアと組め!」と語っていたのです。

かつて、アメリカは、ナチスドイツに勝つために、ソ連と組みました。戦後はソ連に勝つために、かつての敵ドイツ(西ドイツ)、日本と組みました。それでもソ連が優勢なので、70年代初めに共産中国と組んだのです。これが、「アメリカ流リアリズム大戦略」です。

繰り返しますが、2001年時点でミアシャイマーは、

  • アメリカ最大の仮想敵は中国である
  • 中国に勝つためにロシアと組め!

と主張していたのです。

ちなみに私の07年の本は、『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日~一極主義対多極主義』といいます。この本の中で私は、「日本は、中ロを分断しよう」と書いています。

要するに、ほとんどのリアリストは、「最大の脅威は中国」「中国に勝つためには、ロシアと組んだ方がいい」と考えていたのです。ちなみに世界一の戦略家ルトワックさんも、日本は「中国とロシアを分断すべき」と主張していました。

ところが、アメリカ政府はどう動いたのでしょうか?NATOを拡大することで、プーチンは危機感を強めていった。そして、プーチンは、どんどん中国に接近していったのです。まさに、私の07年の本『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』の方向に向かっていったのです。

ミアシャイマーは、

  • 最大の仮想敵は中国
  • 中国に勝つためにロシアを味方につけた方がいい

という基本的認識を20年前から持っていた。それで、今回のウクライナ侵攻について、「アメリカの責任だ」というのです。別にミアシャイマーが「親ロシア」だとか「ロシアの行動を擁護している」わけではありません。ただ、アメリカ政府がやっていることが「大戦略的に愚かだ」ということなのです。

考えてみてください。ロシアが、いわゆる西側陣営に加わっていれば?西側陣営は、楽勝ではないですか?

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